交通事故の判例ファイル13(心神喪失による事故)―その1

意識喪失で有罪となった判例

判例1「てんかん発作で意識消失が原因の死亡事故、禁錮の実刑」

 2008年3月9日、神奈川県横浜市鶴見区内でトラックを運転中、てんかん発作で意識を失った状態で歩道に突っ込み歩行者2人を死傷させたとして、自動車運転過失致死傷罪に問われた45歳の男に対して、横浜地裁は2009年3月18日、禁錮2年8か月の実刑判決を言い渡しました。


 普通トラックが走行中、対向車線に逸脱しそのまま道路右側の歩道に乗り上げて、信号待ちをしていた歩行者を次々にはね、14歳の男子中学生が死亡、27歳の男性も重傷を負ったものです。


 トラック運転者(当時44歳)の男は突然意識を失う“てんかん発作”の症状があったことが発覚し、事故当日は症状を抑える薬を服用していなかったことや、意識喪失を原因とする事故を2006年11月にも起こしていたことがわかりました。


 横浜地裁は「被告はてんかん発作の症状を自覚しており、医師から症状緩和に必要な薬を処方されながら、これを飲むことを相当期間に渡って怠った」と認定し、「過去にも同様の事故を起こしており、事故は予見可能だった」と指摘して「薬を処方どおりに服用していなかったことが事故につながった。被告の過失は大きい」と実刑判決を言い渡しました。

判例2 「てんかん発作が出ても運転した事故で、執行猶予の有罪判決」

 2001年10月10日、山形県山形市内の県道で、てんかん発作の前兆を軽視してクルマの運転を続け、結果的に発作を起こして意識を失い、死亡ひき逃げ事故を起こした49歳の男に対して、山形地裁は2005年9月26日、被告に対して執行猶予つきの有罪判決を命じました。


 山形市城南町1丁目付近の県道で、53歳の女性の運転する原付バイクに後続の乗用車が追突、女性はバイクの転倒によって路上に投げ出されたものの、車は女性を約25m引きずって走行しそのまま現場から走り去り女性は収容先の病院で死亡した事故です。


 運転者の男には「てんかん」の持病があり、事故を起こす直前に軽いめまい(発作の予兆)を感じていたことがわかりましたが、男は発作を抑える薬を服用したものの、予兆を重視せずにクルマの運転を続けた結果意識を喪失。事故に至りました。


 山形地裁は「被告にはてんかんの持病があり、長年にわたって抗てんかん薬を服用していた」と指摘、その上で「発作の前兆を予見することはできた」と認定しましたが、その一方で「事故発生当時、被告は発作によって心神喪失状態であった」として、漫然運転やひき逃げの責任は問えないという判断を示しました。


 しかし、裁判長は「被告は発作の前兆を自覚することはできた。薬を服用している点からもこれは確認できる。運転を自粛する注意義務は果たせた」と指摘、この面では注意義務に反していたとして、業務上過失致死罪を適用し禁錮1年6か月(執行猶予3年)の有罪判決を命じました。

 

 この他、糖尿病の低血糖状態による交通事故で、実刑判決を受けた例もあります。

 それでは、意識喪失で無罪となった判例を見てみましょう。

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