先日、弊社の従業員が得意先へ向かう途中、交差点を直進中に、右折してきた車と交通事故を起こしました。
車両は大破し、積荷の飲料水も破損し商品価値を失ってしまいました。弊社の従業員は2週間の入院を強いられ、現在も通院していますが、事故の責任が重いはず(右折側のため)の相手方は任意保険に加入しておらず、損害賠償はできないと言っています。
弊社も車両保険には加入していないので、最低でも車両の修理費用と失った商品の損失だけは賠償してもらいたいのですが、どのような方法で損害賠償請求をすればよいのでしょうか?
交通事故を起こした加害者が無保険だったとき、被害者が採ることができる手段はいくつかあります。
しかし、やはり加害者が任意保険に加入していない場合には、生じた損害の全額が填補されないことが多いといえ、特にこちらに過失がない場合などは、理不尽な結論となることもあります。
1・保険の利用
──加害者の自賠責保険
加害者が任意保険に入っていない場合でも、自賠責保険は強制加入であるため、加害者の自賠責保険から支払を受けることが考えられます。
ただ、自賠責保険では、その金額の範囲は限られており、また、物損は原則補償されません。今回のケースの場合、従業員の治療費や入通院費、慰謝料等は出ても、自賠責保険では、会社車両の修理費用や商品の損失は填補されないことになります。
──被害者の任意保険
契約内容にもよりますが、会社や従業員の任意保険を利用することも考えられます。自動車保険にも種々の種類があり、車両保険、他者運転危険担保特約、人身傷害補償保険、無保険者傷害保険、搭乗者傷害保険等で、それぞれの契約内容によって保険が下りる場合が規定されています。
しかし、物損については、車両保険のように対象が限定されていることも多く、今回のケースのように、商品に損害が生じた場合までカバーしていないことも多くあります。商品に生じた損害については、会社の業務についての事業保険等の損害保険により、対応できるように検討しておかなければなりません。
2・その他公的保険等の利用
その他の考えられる制度等は、健康保険や各種年金等からの給付や、労災保険(勤務中・通勤途中)、傷害保険、所得補償保険、生命保険等がありますが、会社が負った物損までカバーすることは困難です。
なお、加害者が自賠責保険にすら加入していないような場合、政府保障事業から損害を填補されることも考えられます。これは、自動車損害賠償保障法に基づき、自賠責保険(共済)の対象とならない「ひき逃げ事故」や「無保険(共済)事故」の被害者に対し、一定の要件の下に、政府(国土交通省)がその損害を填補する制度ですが、これも物損までカバーするものではありません。
3・加害者の関係者に対する請求
このように、保険等の利用が困難であるとしても、加害者に対しては、事故と因果関係のある全損害の賠償を請求することができますので、当然その点の検討も必要です。事故態様による過失割合に従って相殺されることはありますが、加害者のみならず、車の保有者や使用者等に対し、不法行為責任、及び運行供用者責任を追及することが考えられます。
ただ、無保険の車に乗っているような加害者には、資力がないことも多く、結局損害額の回収ができなかったり、あるいはできても長期分割払いなどになったりすることが多いということが実情です。
そのような場合でも、示談交渉において、資力のある親族や会社代表者等に、物的担保を入れさせたり、連帯して債務を負わせたりできないか検討し、交渉することも必要です。
自動車を運転するにあたり、無保険であること自体、強く非難されるべきものではあります。しかし物損については、そのような自動車との事故で被害が生じたとしても、こちらも保険加入等をしておらず、相手方や関係者に資力が無いような場合、残念ながら事実上泣き寝入りしなければならないことがあります。
そうならないようにするためには、やはり事故が起こる前に、自動車保険等の内容を確認し、対応しておくことが一番望ましいといえます。
(執筆 弁護士 清水伸賢)