さる5月20日に、「自動車運転死傷行為処罰法」が施行され、さらに、6月1日には道路交通法の一部改正分も施行されました。
管理者の皆さんは、危険運転への罰則が厳しくなったこと等はご存知だと思いますが、ドライバーへの指導は徹底しているでしょうか?
法律が変わったときは交通安全教育をするよい機会です。最近、新法が適用された実例とともにポイントを整理しましたので、参照してください。
自動車運転死傷行為処罰法の第1の改正ポイントは、危険運転致死傷罪(死亡事故で懲役が最高20年・法第2条)に新たに、「通行禁止道路を重大な交通の危険を生じさせる速度で運転」する行為が加わったことです。
「通行禁止道路」とは、歩行者天国など歩行者専用道路の走行や、高速道路・一方通行道路の逆走などが含まれますが、「通行が禁止されている時間帯にスクールゾーンを走行」した場合なども適用されます。普段は車が走行できる道路でありながら登校時間帯などに限って通行を禁止されている道路なども対象になるのです。
【スクールゾーンをバイクで走行し危険運転で逮捕】
2014年5月30日午前8時すぎ、東京都北区で28歳男性が車やバイクの通行が禁止されている時間帯にスクールゾーンをバイクで走行、自転車の男性をはねて軽いけがをさせた後その場を離れたとして、通行禁止場所での「危険運転傷害」や「ひき逃げ」の疑いで逮捕されました。
逮捕された男性は「通行してはいけない道路を走ったのは間違いないが、男性が行ってもいいと言ったので立ち去った」と供述しています。軽い気持ちで走行したのです。
しかし、危険運転傷害罪が適用されると、罰金刑はなしで、最高懲役15年(ひき逃げとの併合罪が成立すると理論上は最高22年6か月の求刑が可能)ということになります。
被害者が軽傷であり、この例で厳罰を適用するとは思えませんが、もし、スクールゾーンで子どもなどが死傷した場合は深刻です。時間帯による通行禁止道路などを調査し、マイカー通勤経路や営業車両の経路などを指導しましょう。
第2の改正ポイントは「死亡事故で懲役が最高15年」の危険運転致死傷罪が加わり、適用のハードルが下がったことです(法第3条)。
今までは、飲酒運転で交通事故を起こしても泥酔状態などが立証できないと危険運転致死傷罪の適用は難しかったのですが、「アルコール、薬物の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転」して死傷事故を起こした場合は適用されますので、飲酒や薬物使用を自覚していれば足ります。
飲酒や薬物運転での事故は過失致死傷ではなく危険運転になりやすいと考えるべきであり、酒気残りを含めた飲酒運転根絶指導が大切です。
第3の改正ポイントは、危険運転致死傷罪に新たに「幻覚や発作を伴う病気の影響により運転に支障が生じる恐れがある状態で運転した場合」が追加されたことです(死亡事故で懲役15年)。
運転に支障が生じる恐れのある病気として、「統合失調症」「てんかん」「再発性の失神」「糖尿病による低血糖症」「重度の眠気を呈する睡眠障害」「躁うつ病」などがあげられ、免許の取消・拒否事由となる病気と一部重なっています。
重度の睡眠障害のなかにはSAS(睡眠時無呼吸症候群)なども含まれますので、スクリーニングなどでSASと診断されたドライバーがいる場合は、検査や治療に行くように指導してください。
【てんかんの発作による事故で危険運転致死傷を適用】
2014年6月7日午前4時5分ごろ、札幌市内で起こった交通事故の逮捕時に、病気の症状を理由にした危険運転致死傷罪が初めて適用されました。
26歳の男性運転者が、運転中に「てんかん」によるけいれん発作を起こして対向車線にはみ出し他車と衝突、相手に打撲傷などを負わせた事故です。
事故の運転者は、「いつ発作を起こすかとビクビクしながら運転していた」と供述し、疾病の影響により事故を起こす恐れへの自覚があったので、危険運転傷害罪により逮捕されました。しかも、この男性は無免許運転でしたので、無免許の加重により最長15年の懲役刑が求刑可能な罪です。
※この運転者の刑事裁判の判決は9月2日にあり、札幌地裁は懲役1年10月(求刑懲役2年)の実刑判決を言い渡しました。
第4の改正ポイントは、飲酒や薬物の影響を隠そうとして(危険運転致死傷罪を逃れようとして)事故現場から逃げてアルコールを抜こうとしたり、別の場所で飲酒してごまかそうとしたりした場合も「逃げ得」を許さず、「発覚免脱罪」(法第4条)が適用されることです(最長で懲役12年)。
【飲酒と無免許発覚を恐れて逃走、発覚免脱罪を適用】
2014年5月20日午前0時40分ごろ、福岡県飯塚市内で軽乗用車を酒気帯び状態で運転中、対向車と衝突する事故を起こした運転者が、対向車の運転者に打撲症など負傷させたのにも関わらず、酒気帯び運転と無免許運転の発覚を恐れて逃亡し、後日、自動車運転死傷行為処罰法違反(発覚免脱)容疑で逮捕されました。法施行後の発覚免脱罪の初適用例です。
無免許運転の加重があるので、最高で懲役15年の罪に問われますが、このケースでは被害者の女性が軽傷だったこともあり、福岡地裁飯塚支部は懲役1年6月、執行猶予5年(求刑懲役1年6月)の判決を言い渡しました(平成26年8月12日判決)。
第5の改正ポイントは、6月1日施行の道路交通法改正により、免許取得時や更新時における疾病チェックが厳しくなったことです。
免許の申請や更新時などには下図のような質問票に正しく記入して提出しないと、次の手続きにすすめません。
幻覚や発作など一定の病気等の影響で運転に支障をきたす病気の症状がある人は、虚偽申告をすると罰せられるようになりました。
ただし、病気の治療をして症状が抑えられていれば免許取得・更新にまったく問題がないので、きちんと治療をしている人が不安になる必要はないでしょう。
反対に、治療を受けていなくても、「昼間に突然、居眠りをしてしまう」などの症状がある人は、病名にとらわれることなく症状を申告することが重要です。
第6の改正ポイントは無免許運転への罰則強化です。すでに道路交通法の改正は昨年12月1日に施行されていますが、さらに自動車運転死傷行為処罰法の施行により、人身事故の処罰に関して無免許運転の加重という罰則強化が加わって非常に厳しいものになりましたので、重ねて指導しておきましょう。
また、事業所の管理者などが無免許運転の下命・容認をした場合の罰則も、非常に強化されていることを再確認しておきましょう。
たとえば運転者が普通免許しかもっていないことを知りながら、中型トラックなどの運行を指示した場合、運行管理者や車の使用者が最高で懲役3年の罪に問われます。
●以上のように、危険運転致死傷罪の適用範囲が広がったことを肝に銘じて、通行禁止道路の走行や一方通行の逆走なども安易に行わないように指導しておくことが大切です。
●運転者の高齢化に伴い健康問題も大きな課題であることを強調しておきましょう。