弊社では交通事故が絶えず、保険料も大幅に上がってしまいました。そこで、社長が「事故を起こしたものは、1ヶ月の間、早出してトイレ掃除」や「ボーナスカット」などの罰則を考えています。しかし、私たち従業員からは「ペナルティを科すのは違法ではないのか」といった声も上がっています。このようなペナルティの設定は違法になりませんか?
会社は企業の秩序を守るためのルールを作ることができ、従業員は雇用されている限り、同企業秩序を遵守しなければなりません。
そして、同企業秩序の維持のため、会社は相当な範囲で従業員に対して一定のペナルティを科すことができます。しかし、もちろんどのような内容でも無制限に科すことができるわけではなく、労働契約や、諸法令に反しない範囲においてということになります。
会社が従業員に対してペナルティを科す場合は、大きく「懲戒処分」として行う場合と、「業務命令」として行う場合が考えられます。
労働基準法第89条は、少なくとも常時10人以上の労働者を使用する使用者について、就業規則の作成、及び行政官庁への届出を義務づけており、就業規則の内容として、同法同条9号で「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」が挙げられています。
すなわち、10人以上の従業員を使用する会社が従業員に対して「制裁の定め」をする場合には、事前に就業規則に明確に定めておかなければならないといえますし、従業員が10人未満であっても、基本的には同様の対応が望まれるといえます。
逆に言えば、就業規則に定めていれば、従業員に対する制裁も認められることになり、通常は「懲戒処分」として、「戒告・譴責」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨退職」「懲戒解雇(免職)」などが定められることが多いです。そのため、一定のペナルティを会社が科すこと自体がただちに違法であるというわけではないといえます。
しかし、会社が懲戒処分として一定のペナルティを従業員に科すことができるとしても、制限はあります。まず、会社の制度として罰則を規定することは、「制裁の定め」に該当すると考えられるため、当然上記のとおり就業規則に定めておかなければなりません。
なお労働契約法第9条では、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」とされており、途中で就業規則を変えるような場合には、従業員との合意が必要となります(ただし、同法第10条に例外があり、変更を労働者に周知させ、その変更が合理的である場合には変更が認められます。)。
また、罰則の内容は、当該従業員の行為に見合った相当な程度のものでなければなりませんし、他の労働法令等に反するような態様のものではいけません。
この点、従業員の過失の程度に応じて制裁処分を科すことも可能です。ただし、懲戒処分を行う事由とそれに対応する懲戒内容を就業規則に明記しておく必要があるため、交通事故の程度とその過失割合まで明記しておくべきです。
上記のように原則として、従業員の制裁の定めは、就業規則に記載しなければなりません。しかし、戒告や減給、懲戒解雇等ではなく、もっと日常的なペナルティ、例えば設問にいうトイレ掃除などについては、就業規則に明示までして行うのではなく、事実上、職場内で上司等が従業員に命ずる形で行われることが多いでしょう。
この場合は、会社からの業務命令として、従業員に一定のペナルティを科していることになります。
業務命令は、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令をいい、労働契約を締結している労働者は、使用者の業務命令に従う義務があるといえます。
ただもちろん、使用者の業務命令であれば何でも従わなければならないものではなく、会社は「労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内」で、業務命令により指示命令できることになります。
どこまでを指示命令できるかは、労働契約の内容や解釈によりますが、具体的には就業規則や労働協約、実際の契約や就業の状況、慣行等の諸事情を総合的に考慮して判断されるのが一般です。
その上で、さらに業務命令の目的や内容、程度、従業員の不利益の内容等を総合的に考慮して、会社の裁量権の濫用となる場合には、違法となります。そのため、質問のような「トイレ掃除」は、労働契約の範囲内であると認められる場合、例えば通常従業員が持ち回りなどで行っており、1か月という期間や、早出の時間も相当といえるような事情がある場合には、違法とされるわけではないと考えられます。
ただし、トイレ掃除自体がただちに違法とされないとしても、「早出して」行うので、これを業務命令と解する以上、早出した時間も労働時間です。そのため、万一同掃除の時間を無給とすれば、それは違法な命令となりますので注意が必要です。