全国労働衛生週間(10月1日~7日)が始まりました。
管理者の皆さんは、従業員の健康と安全について、管理・指導に尽力されていることと思いますが、盲点となりやすいのが、派遣社員、アルバイト、再雇用によるパート従業員などへの指導です。
車やフォークリフトなどの安全を確保するための管理・指導はすべての従業員に対して重要です。
そして、運転業務につかない非正規従業員でも、マイカーやバイクで通勤することがあるため、安全運転指導は正社員と同様に大切ですが、非正規ということでどうしても軽視されがちです。
以下のような事故事例を他山の石として、自社でもリスクがないかチェックしましょう。
【こんな事故が起こっています】
アルバイト社員に夜間、長距離運転をさせ
同僚3人が死亡する大事故に!
平成25年5月20日午前3時ごろ、伊賀市の名阪国道で雨の中で制限速度の2倍近いスピードで走行した乗用車が、右カーブの下り坂でブレーキをかけたあと横滑りし、ガードレールに衝突した後、中央分離帯に激突しバックドアが開放、同乗者3人が道路に投げ出されて死亡しました。運転者など他の4人の男性も重軽傷を負いました。
車に乗っていた7人は同僚で、三重県でパチンコ台の入替え作業の仕事を終えて、大阪に戻る途中でしたが、運転者(31歳のアルバイト社員)は、「疲労した仕事仲間らを早く帰宅させたいとの思いで急いでいた」と述べています。
■運転者は懲役2年10月の実刑
この事故の刑事裁判で裁判官は「制限速度をはるかに超える時速120~130キロの高速度のまま路面が湿潤したカーブに進入していて、危険というほかない」と指摘し、「同乗者を早く送り届けたいとの動機で、危険な運転は正当化されない」と述べ、懲役2年10月(求刑懲役5年)の実刑判決を言い渡しました(津地裁平成25年10月31日判決)。
運転者のミスをかばうことはできませんが、事業所の立場から事故の教訓として考えられることは、アルバイトという立場の従業員に多くの同僚を送迎する運転業務が任されていたことです。
運転は危険な業務であり、運転経験や安全知識が豊富な正社員が運転していれば、これほどの大事故に至らなかったかも知れません。
カーブでスピードを出しすぎただけでなく、トンネルを出た直後の濡れた路面でブレーキを踏むなど、運転操作に軽率なものがあり、安全運転知識が足りなかったと推測されます。
事業所の管理者は、こうした経験の浅いアルバイト運転者などには重要な運転業務を命じないこと、また、どうしても運転が必要な場合は、十分な安全運転教育を行なうように心がけましょう。
またこの事故の背因には、7人の従業員が業務終了後に帰宅のため深夜移動していることも影響していると思われます。
作業が終わり疲労もかさんでいるのに、アルバイト従業員が夜間、雨の中を長距離走行することは非常に危険でした。
パチンコ台の入替え作業は閉店後夜間に行なうので、深夜の帰還が多いことは常識でしょうが、悪天候下の長距離移動はリスクが高いのです。
従業員が夜間に業務を終える場合は、近くで仮眠・宿泊して翌朝に戻るような余裕のあるスケジュールを立てることが安全運転管理上は極めて重要です。
高年齢者雇用安定法が改正され、平成25年4月より、希望者全員に65歳までの再雇用が義務化されました。60歳定年の事業所であっても再雇用が常識化しています。
再雇用では多くの場合、賃金が大幅に減少したり、職務内容が変更されます。
このように雇用条件が変わった60歳以上の従業員に対しては、以下のような理由で安全運転指導・労働災害防止教育を徹底する必要があります。
今まで安全な運転者だった人が、定年・再雇用を境に豹変することがあります。
「賃金が半減したのに、大真面目にやってられない」「どうせ1年契約だし…」といった意識が、運転態度にも影響してしまうからです。
55歳以上の運転者は、視力低下とくに動体視力や深視力に影響が現れやすく、交差点などで交差車両に気づくのが遅れるといった危険が増加します。また、危険への反応時間も遅れがちとなります。
なお、高血圧症や糖尿病など生活習慣病の罹患率が高まるので、体調変化が運転に悪影響を与える危険も増加します。
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事業用自動車の運転者の高齢化に伴い、交通事故惹起者に占める60歳以上の運転者層の割合が増加してきています。
平成24年中の交通事故件数では、全交通事故惹起者の約3分の1が60歳以上です(国土交通省/事業用自動車の事故発生状況と中間目標の達成状況 より)。
また、60歳以上の運転者の場合は、事故発生状況として、低速での事故や出会い頭事故などの割合が他の年齢層と比べ高くなっています。これは、高齢化に伴う認知・反応時間の低下等が原因と考えられます(同上)。