■軽井沢スキーバス事故対策の進捗状況まとめ
平成28年1月15日に長野県軽井沢町で発生したスキーバス転落事故を踏まえて、貸切バスの事故対策を話し合っていた「軽井沢スキーバス事故対策検討委員会」が6月3日に最終とりまとめを行い、報告書を公表しました(「安全・安心な貸切バスの運行を実現するための総合的な対策」)。
国土交通省は、この対策の進捗状況を平成28年12月20日公表し、さらに平成29年4月19日に追加報告しましたが、それによると、85項目にのぼる対策項目の内で80項目が実施済みとなっています。
貸切バス事業者、運行管理者の遵守事項と責任が強化されたほか、法令違反の早期是正のため、行政処分基準も大幅に強化されています。
運転者に対しては、技量チェックの強化として全ての初任運転者の適性診断を義務づけたほか、初任運転者に実技訓練(20時間)などの実施も義務づけられています。
さらに、監査の実効性を上げるための民間適正化機関などを創設し、ルール違反をする事業者の是正と排除を強調しています。
詳しくは、国土交通省のWEBサイトを参照してください。
対策項目 | 具体的な内容 |
行政処分の迅速、厳格化 | 貸切バスの行政処分基準を厳格化し、甚大な人身被害をもたらす事故を起こした場合であって、事業者に悪質な違反がある場合は、累積点数に関わらず事業許可の取消処分を行う。 |
→ 【6月30日に通達を改正、7月1日から施行】 |
対策項目 | 具体的な内容 |
車体構造の強化 | 乗車定員18人以上のバスについて、国連が定める車体の強度に関する基準を義務化する(転覆時に乗員保護空間を確保する強度を有する構造)。 |
【道路運送車両の保安基準改正、平成30年10月1日以降新型車両に適用】 |
対策項目 | 具体的な内容 |
運転者の技量 チェックの強化 |
事業者は、新たに雇い入れた運転者の経歴と運転経験(車種ごと)を申告させ、その内容を乗務員台帳に記載しなければならない。 |
【8月31日に旅客自動車運送事業運輸規則を改正】 | |
不適格者の排除 |
運行管理者資格者証の返納命令を受けた者は欠格期間中、運行管理者の補助者としてもバス事業の運行管理業務に従事できない(貸切バス事業者に限らず、すべての旅客自動車運送事業に適用/欠格期間は12月20日より5年に延長 ) |
【8月31日に旅客自動車運送事業運輸規則を改正】 | |
旅行業者との 関係強化 |
貸切バス事業者は、申込者に対して支払う手数料等の額を記載した書類を運行引受書の写しとともに1年間保存しなければならない。 |
【8月31日に旅客自動車運送事業運輸規則を改正】 | |
旅行業者との 関係強化 |
貸切バス事業者が旅行業者(申込者)と取り交わす運送申込書/引受書の記載事項の中に、運賃・料金の上限額・下限額が追加される。 |
【8月31日に旅客自動車運送事業運輸規則の関連告示を改正】 |
対策項目 | 具体的な内容 |
事業用設備の 強化 |
大型バス等の乗用自動車の補助座席について、座席ベルトと座席ベルト取付装置の装着を義務づける。(経過措置有り) |
【8月31日に「道路運送車両の保安基準」を一部改正】 |
対策項目 | 具体的な内容 |
運行管理者の 資格要件の強化 |
バス事業の運行管理者資格要件には「5年以上の実務経験も可」となっているが、貸切バスは運行管理者試験合格者に限定する。 |
【11月15日に旅客自動車運送事業運輸規則を改正】 | |
運行管理の強化 |
夜間、100kmを超える長距離を運行する貸切バス運転者について、道路及び運行状況、疲労の有無等を確認する乗務途中点呼の実施を義務づける。 |
【11月15日に旅客自動車運送事業運輸規則を改正】 | |
初心運転者等への 指導・監督強化 |
貸切バス運転者に直近1年間に乗務していた車種区分より大きいバス(中型・大型等)に乗務させる場合については、初任運転者と同様の特別な指導・監督の実施を義務づける(準初任運転者)。 |
【11月15日に旅客自動車運送事業運輸規則を改正】 | |
貸切バス事業者の 遵守事項の強化 |
貸切バス事業者が輸送の安全情報を公表した場合、遅滞なく、その内容を国土交通大臣に報告することを義務づける。 |
【11月15日に旅客自動車運送事業運輸規則等を改正】 | |
監査必要書類備え付けの義務化 |
バス・タクシー事業者に、監査等の際に速やかに提示できるように「運行管理に係る書類」を一定の場所に備え付けることを義務づける。 |
【11月15日に運輸規則・告示等を改正】 | |
不適格者の排除 |
乗車定員11人以上の自動車の使用者は、整備管理者を解任された者をその日から5年間は整備管理者として選任することができない。 |
【11月15日に道路運送車両法施行規則を改正】 | |
初心運転者等への 指導・監督強化 |
貸切バス事業者は新たに雇い入れる「すべての運転者」に対して、適性診断(初任)を受診させ、運転特性を踏まえた決め細やかな指導・監督を実施することが義務づけられます。 |
【8月31日に運輸規則・告示等を改正】 |
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初心運転者等への 指導・監督強化
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貸切バスで新たに雇い入れた運転者等への指導に20時間の実技訓練を義務づけるほか、実技以外の指導(座学)時間を6時間とする(平成29年12月1日以降は座学を10時間に延長する)。 |
一般的な指導・監督の内容として『安全性の向上を図るための装置(ASV装置など)を備える貸切バスの適切な運転方法等』を追加する。 | |
【11月17日に指導・監督の指針(告示)等を改正】 |
対策項目 | 具体的な内容 |
違反の早期是正と 処分の厳格化
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貸切バスの街頭監査で「交替運転者がいない」「疲労・疾病」などの重大な法令違反が確認された場合、その場で輸送の安全確保命令が発動され、改善されるまで車両の使用停止命令が行われ運行ができなくなる。その後、特別監査が実施される。 |
→ 【11月18日に通達を改正】 | |
貸切バスの一般監査や特別監査で重大違反事実が発覚した場合、輸送の安全確保命令が発動され、即30日間の事業停止が科されるとともに、後の監査で是正されない場合は「事業許可が取り消される」。 また、軽重にかかわらず監査で違反が発覚し(1回目)、30日後の「指導事項確認監査」(2回目)で一部でも改善が確認できない場合は、輸送の安全確保命令が発動され、命令発動後の監査(3回目)で改善が30日以内に確認できた場合は「3日間の事業停止処分」、改善できていない場合は、事業許可が取り消される。 |
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→ 【11月18日に通達を改正】 |
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貸切バスは、行政処分により使用を停止する車両の割合を引き上げ、営業所の保有車両数の8割が基本とされる。 (例)営業所の配車車両数が5両であり、処分100日車の場合 → 4両を 25 日間停止。 |
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→ 【11月18日に通達を改正】 |
対策項目 | 具体的な内容 |
監査機構の補完と自主改善を促進 |
貸切バス事業者への監査機能を補完するため、民間の適正化機関による巡回指導を行い、貸切バス事業者からそのための負担金を徴収する仕組みが創設された(負担金納入命令違反には行政処分)。 |
【平成28年12月9日に道路運送法を改正、12月20日から施行】 |
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欠格期間延長と処分逃れ事業者の排除等 |
事業許可取消し処分を受けた貸切バス事業者が再度許可を受けるまでの期間が改正前の2年から5年に延長された。 |
許可取消事業者のグループ会社や監査後にすぐ廃業し処分を逃れた事業者の場合も参入を拒むことができるようになった。 | |
運行管理者証の返納命令を受けた場合も、欠格期間が改正前の2年から5年に延長された。 | |
【平成28年12月9日に道路運送法を改正、12月20日から施行】 |
●法人の罰則重科(100万円以下 → 1億円以下)
罰則面では、改正前の道路運送法における「輸送の安全確保命令への違反」は違反行為者に対して「100万円以下の罰金」、法人に対しても同じ罰則となっていた。
しかし、航空法や鉄道事業法では罰則が「1年以下の懲役又は150万円以下の罰金」、法人への罰則は「1億円以下の罰金刑」となっていることから、法人重科の規定を創設して、貸切バス事業者の罰則額は現行の100倍に引き上げられた。
●経営者・運行管理者の懲役刑も新設
また、経営者、運行管理者に対する輸送の安全命令違反の罰則も、現行の「100万円以下の罰金」から「1年以内の懲役または150万円以下の罰金」に強化された。
対策項目 | 具体的な内容 |
貸切バスへの行政 処分の実効性向上を図る
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貸切バス事業者に対して適正化事業実施機関への負担金納入命令制度を創設したことから、納付命令違反の処分量定を新設。
納付命令等違反──(初違反)60日車 (再違反)事業許可の取消 |
→ 【平成29年3月14日に通達を改正、3月21日から施行】 | |
運輸規則の改正に伴い、その他の貸切バスの違反に対する行政処分の量定が新設された ・乗務途中点呼の実施義務違反 未実施 (初違反)40日車 (再違反)80日車等 ・輸送安全情報の講評報告義務違反 未報告 (初違反)警 告 (再違反)10日車 虚偽報告 (初違反)60日車 (再違反)120日車 ・運行管理者補助者の選任・解任の届出義務違反 未届出 (初違反)警 告 (再違反)10日車 虚偽届出 (初違反)60日車 (再違反)120日車 ・運行管理書類の適切な管理義務違反(監査等にかかる) 一種類管理不適切 (初違反)警 告 (再違反)10日車 複種類管理不適切 (初違反)20日車 (再違反)40日車 |
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→ 【同、3月21日から施行】】 |
平成29年4月より、改正道路運送法により既存事業者を含めて事業許可の更新制が導入されました。
不安全な事業者のグループ会社や過去に監査後にすぐ廃業し処分を逃れた事業者の場合も、事業を継続できなくなる可能性が大きくなります。
対策項目 | 具体的な内容 |
事業許可の更新制を導入 |
既存のバス事業者を含めて貸切バス事業を一定期間ごとにチェックする事業許可の更新制を導入し、安全に事業を遂行できる能力がないとされると事業を更新できなくなる。 原則5年更新制度。 |
【平成28年12月9日に道路運送法を改正、平成29年4月1日から施行】 |
対策項目 | 具体的な内容 |
運行管理者の 選任数
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車両数にかかわらず運行管理者は最低2名以上の選任を義務化する。 さらに、現行では30両ごとに1名とされている営業所の運行管理者の必要選任数は20両ごとに1名に引き上げられる(※100両以上分に関しては30両ごとに1名)。 |
→ 【平成28年11月15日に運輸規則を改正、平成29年12月に施行】 | |
ドライブ・レコーダーの義務化 |
貸切バスでは、一定の性能を満たすドライブレコーダーを装着し映像の記録・保存と、その記録を活用した運転者への指導・監督を義務づけるとともに記録を活用した事故調査・分析を行う。 |
→ 【同年11月17日に運輸規則、指針を改正、平成29年12月に施行】 |
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指導・監督の強化 |
貸切バスでは、ドライブレコーダーを活用した指導・監督を義務づけることに伴い指導・監督指針を改正し、撮影したドライブレコーダーのヒヤリ・ハット映像等を座学に活用するとともに、初任運転者・事故惹起運転者への特別指導では座学講習時間を10時間に延長し、実技指導時のドライブレコーダー映像を個別の指導にも活用し、特別指導後の運行時にはドライブレコーダーの映像も活用して指導の効果を確認する。 |
→ 【11月17日に指導・監督指針を改正、平成29年12月に施行】 |
【運行管理者選任数の例】
貸切バス保有台数 39両までの営業所 ・最低2名以上
〃 40両以上の営業所 ・20両ごとに1名増員
〃 100両以上の営業所 ・30両ごとに1名増員。
※ただし、営業所のバス台数が4両以下で地方運輸局長が運行の安全確保に支障がないと認める場合は1名でも可
対策項目 | 具体的な内容 |
運行管理者資格者証の返納処分の対象拡大 |
貸切バス事業者が甚大な人身事故を起こし、「事業許可取消」処分を受けるような場合で、運行管理に係る悪質な法令違反が認められる場合は、営業所の全運行管理者に対して運行管理者資格者証の返納が命じられるようになる。 |
【平成28年6月30日に通達を改正、7月1日から施行】 |
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貸切バス事業者が繰り返し違反を是正しない場合で、「事業許可取消」処分を受けた場合、事業者に勤務する全運行管理者に対して運行管理者資格者証の返納が命じられる。 | |
【平成28年に通達を改正、同年12月1日から施行】 | |
貸切バス事業者が重大事故等を起こして監査を行った結果、「処分の量定」が120日車以上となった場合、違反に関わった全運行管理者に対して運行管理者資格者証の返納が命じられる。 | |
【平成28年に通達を改正、同年12月1日から施行】 |
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運行管理者が自家用車の運転中に飲酒運転又は薬物運転をした場合も資格者証の返納が命じられる。 | |
【平成28年に通達を改正、同年12月1日から施行】 | |
運行管理者が行政処分逃れのため、処分基準となる違反の事実を隠滅したり、書類を改ざんした場合も資格者証の返納が命じられる。 | |
【平成29年3月に通達を改正、平成29年3月14日から施行】 |
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