高速道路の工事作業員と事故を起こしました

出張中の従業員が、高速道路の追越車線の工事を行っていた作業員と衝突し、重傷を負わせてしまいました。幸いにも命に別状はなかったのですが、従業員は50km/hの速度規制を守らずに、80km/hで走行していたようです。このような事故を起こした場合、人身事故に関して弊社はどのような責任を負うでしょうか?

■高速道路事故の現状と事故時の運転者責任

 高速道路では、質問のように工事中の現場に車両が進入するような事故が生じることがあります。東日本、中日本、西日本の各高速道路株式会社によれば、工事においては、工事規制箇所の手前約1km付近から工事規制予告標識を設置するなど、進入を防止する措置を講じています。

 

 高速道路における工事では、通常はこのような進入防止措置が採られているため、事故が生じる原因の86%が前方不注視(漫然運転67%、わき見運転16%、居眠3%)であり、残りはハンドル・ブレーキ操作不適当、速度超過、スリップ、横風などが原因となっています(令和5年NEXCO調べ)。

 

 このような事故の場合、高速道路だけに事故時の走行車両の速度が高いこともあり、多大な被害が生じることもあります。

 

 そして、基本的には進入防止措置が採られているにもかかわらず事故が生じているため、運転者に過失が認められるケースが多いともいえ、進入防止措置等が不十分であったような場合や、作業員が規制されていない車線を横断するなどの危険な行為を行っていたような場合でなければ、過失相殺がされることも考えにくいといえます。

 

 質問の事例の場合、前方不注視の有無は不明ですが、速度超過違反の走行であり、運転者は不法行為責任を負うことになると思われます。

■高速道路の責任は事業所にも及ぶ

 高速道路における走行については、普通の道路とは異なり、最低速度制限(道路交通法75条の4)や横断等の禁止(同75条の5)などの特別の規定がありますが、質問のような事故の場合における責任自体は、一般道路の場合とそれほど変わるものではありません。

 

 運転者は、傷害を負わせた被害者に対する不法行為責任を負い、人的損害について損害賠償義務を負いますし、物的損害についても損害賠償義務を負います。

 

 事故を起こした運転者が事業主に雇用等されており、当該事故の際にその事業主の業務の執行について運転していたという場合には、その事業主は使用者責任を負い、また被害者に生じた人的損害について運行供用者責任を負うことになります。

 

 以上の責任は、傷害を負った作業員に対して負う責任ですが、その他に高速道路上の交通事故により、従業員が傷害を負ったことなどに関し、工事を進めることができなくなった工事会社が、間接的な企業損害を請求することも考えられます。

 

 しかしこれについては、通常は運転者としては一般にこのような企業損害まで発生することは予見できないことでもあり、事故と損害との間の因果関係が認められず、請求が認められないのが原則といえるでしょう。

 

 ただし逆にいえば、具体的な事故状況等に鑑みて、企業損害までも予見可能であり、因果関係が認められるという場合には、その損害についても賠償義務が認められ、事業主も使用者責任を負うことはありえます。

■高速道路における事故の裁判例等

 間接的な企業損害については、裁判例も原則として「従業員が交通事故で業務に従事できなくなり、企業に事実上の損害が生じたとしても、そのような損害は交通事故の加害者にとって一般に予見可能ではなく、間接損害としての企業損害は認められない」としています(最高裁判所昭和54年12月13日判決)。

 

 ただし必ず認められないわけではなく、最高裁判所昭和43年11月15日判決では、「会社がいわゆる個人会社であり代表者に会社の機関としての代替性がなく両者が経済的に一体をなす関係がある場合において、交通事故により会社代表者を負傷させた加害者が会社に対し損害を賠償する責任がある」とされています。

 

 なお、高速道路において交通規制を行っていた警備保障会社の車列に大型貨物自動車が突っ込み、作業員らが死傷、作業車両が損傷した事故について、請負契約に基づく警備業務が合意解除までの2か月間実施できなかったことによる利益喪失をもって事故と相当因果関係のある損害と認められた裁判例(京都地方裁判所平成31年3月26日判決)もありますが、控訴審では同請求は退けられました(大阪高等裁判所令和元年9月25日判決)。

 

 京都地裁判決では運転者は、高速道路の規制がされていることを認識し、その作業車両に対し、大型のトラックをもって時速約90ないし100キロメートルの高速で衝突したことで、作業員の死傷、作業車両の損傷の結果は十分予測可能で、その結果工事ないし警備業務が中断されることは予見可能であったとされて因果関係が認められました。

 

 それに対し大阪高裁は「ある企業の従業員が業務従事中に事故で死傷したとしても、これにより、事故に直接遭わなかった同じ企業の他の従業員が退職や転属を希望するようになるということ自体が余り一般的なこととは考えられない上(ただし、事故による死傷者との親疎<著者注:親しいことと疎遠なこと>が影響すると考えられる。)、さらに、その結果、当該企業で業務遂行に必要な従業員が不足する事態となって、既存の契約に基づく業務さえ継続して遂行することが困難になるという事態は、当該企業の既存の人的組織の規模等にも影響されることから、一般に予見することは、より一層困難といわなければならない。」として、因果関係が否定されています。

 

 これらの裁判例からしても、通常は交通事故による間接的な企業損害については予想できず、原則として因果関係が認められないといえるでしょう。

■高速道路走行の安全指導も怠らない

 上記の各判例等は、具体的な事案における事実関係を検討して判断されたものであり、具体的な事故状況や損害の内容等により、結論が異なりますが、事業主は少なくとも事故に関する使用者責任、及び運行供用者責任を負うことになるとはいえます。

 

 事業所としては、従業員に対して高速道路の走行についても安全教育等を徹底しておくべきです。

執筆 清水伸賢弁護士

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