作業の安全マニュアルや運転者の安全行動規程があるので、事業所の管理体制は万全だという管理者がいますが、本当にそうでしょうか。
安全ルールがない事業所は問題外ですが、事故は、ルールがあってもそれが守られていないために発生することが多いからです。
管理者は往々にして、「規則や手順書、注意書きなどの文書をちゃんと流しているから、営業所の管理職や個々のドライバーはそれを読んで熟知し、いつもその通りに実行している」と思い込むものですが、それは過大な幻想です。
「誰も守っていないのでは……」と疑ってかかるぐらいの危機意識を持ちましょう。
交通事故ではありませんが、先日も、こんな事故が発生しました。
2011年1月30日、東京ドームシティの小型ジョットコースターで、体重100キロ超の男性会社員がコースターから転落死しました。被害者の身体が大きすぎて安全バーの固定が不十分だったために落ちたとみられ、女子大生のアルバイトが、バーの固定状況を十分に確認しないままコースターを発車させたのが原因とされています。
しかし、この施設では、従業員が安全バーの確認をすることや、身体が大柄すぎてバーが固定できない場合は乗車させないという安全規程はあったのです。それが現場でどのように運営されていたかが問題です。
女子大生は、「口頭で『安全バーを下ろしてください』とアナウンスしたが、手で触っては確認しなかった。バーが下りているように見えたので発車しても大丈夫だと思った」と供述していますが、これが現場の実態だったようです。
コースターは怖いので、乗る人は自分でしっかりバーを固定しようとします。普通の体格の人はうまくいくので、いちいち手で確認しなくても大丈夫、という認識が現場にあったのではないでしょうか。
直接、バーを一つ一つ目視と手で触って確認するよう、徹底して実地教育する必要がありますが、アルバイトや派遣社員を使っている以上、それが本当に守られているか、ときどき現場を視察することも事故を防ぐためには必要だったと思われます。
また、貨物運送事業の元請け企業で聞く話ですが、孫請けの運送事業所が過労運転による事故を起こしたので調べてみたところ、「点呼が満足にされていなかった」ことが判明したそうです。点呼なしの運行は法令違反であり、元請けが要求する基本ルールの違反でもあります。
しかし、その事業所では、社長が運行管理者を務める傍らドライバーでもあり、仕事が忙しい時期は社長自ら全国を飛び回っていて、ルールは知っていても点呼ができる状況にはなかったそうです。元請けはもちろん一次下請も把握していませんでした。
大きな事故が起こって、初めて不安全な作業実態が明らかになることは多いのですが、マニュアルやルールを整備・配布していればよいのではなく、現場でどのような作業をしているのか、管理者自身の目で見て、確認することが必要です。
ルールが守られていない実態があれば、その理由を現場のドライバーや作業者に聞くことです。
コンサルタント会社が机上で作った規程などを金科玉条のように下ろしていると、マニュアル通りではあまりに作業が煩雑になって守られないということもあります。もっとルールを単純化したほうがよい、といった声にも謙虚に耳を傾けましょう。
また、前述の点呼をする運行管理者がいないということがわかった元請け物流会社は、この問題を解決するため、下請け企業に運行管理者の補助者を育成し、点呼を担当してもらうように援助することを決めました。
このように、文書を流すだけでは解決できない現場の実態もあるということに気づくことが大切です。
点呼の実施は運送事業者の義務ですが、いざ、ドライバーと向き合ったときに何を話せばいいのか、戸惑う管理者も少なくありません。
本DVDは、トラック運送事業の安全運行のために欠かせない「点呼」のポイントを管理者とドライバーのやり取りによって具体的に紹介していますので、毎日の点呼のご参考にしていただくことができます。
乗務前点呼はもちろん、乗務後や中間点呼まで点呼者が忘れてはならないチェックポイントを理解することができます。