過去にも、運転者と共に飲酒した同乗者の責任を認めた裁判例がありますが、認めた例では、いずれも事故当時に同乗者が車に同乗しています。
【同乗者の責任を認めた例】
◆飲酒ひき逃げ死亡事故で共同不法行為責任を認定
──6,200万円の損害賠償責任(山形地裁米沢支部 2006年11月24日判決)
飲酒して自家用乗用車を運転、飲酒の発覚を恐れたため、無灯火で制限速度を大幅に超過して赤信号を無視し、青信号で横断歩道を渡っていた女子大学生(20歳)をはねて死亡させたひき逃げ事故が発生しました。裁判所が飲酒運転と危険運転行為を幇助した同乗者の共同不行為責任を認めた例です。
裁判所は、友人2人が運転者と共に飲酒し、運転者が相当量のアルコールを飲んでいることを知りながら同乗したことを重視しました。
さらに、3人が被害者を放置して逃走した後も、飲酒を継続していたなどの悪質性を考慮、遺族(両親)固有の慰謝料を計1千万円認定し、共同で総額約 6,200万円の支払いをするように命じました。
(※交通事故民事裁判例集 第39巻6号1665頁掲載)
◆飲酒運転を制止せず同乗した責任を認定
──民法719条第2項の「幇助者」責任(東京地裁八王子支部 2003年5月8日判決)
運転者が甚だしい酩酊状態で自家用トラックを運転して、前方不注視で専門学校生(21歳)の原付に追突して死亡させ、そのままひき逃げした事故で、上と同じく同乗者の責任を認めた裁判例です。
裁判所は同乗者2人が、運転者と飲酒しながら運転を制止しなかっただけでなく、同宿していた旅館に帰るために飲酒運転の車に同乗した件で、民法719条2項に定める飲酒運転を幇助した「共同行為者」と認定し、運転者と共同で総額約 5,170万円の支払いをするように命じました。
(※交通事故民事裁判例集 第36巻3号671頁掲載)
【同乗者の責任を認めなかった例】
◆運転者に酒を勧めたとは認めず、責任を否定
──送るよう依頼していない点も考慮(東京地裁 2006年2月22日判決)
友人4人でカラオケボックスに行って飲酒した帰り、二輪車2台に分乗して走行中に追越しミスから接触、ブロック塀激突で同乗者の1人(20歳大学生)が死亡した事故につき、両車の運転者の共同不法行為(複合した過失)を認めた上で、加害車両の後部座席に同乗していた女子大学生(21)の責任を認めなかった裁判例です。
女子学生は当時被害者のアパートで同居していた友人でした。共に飲酒はしたものの、2人の運転者に飲酒を勧めたと認める証拠がなく、アパートまで送るよう依頼していないこと、カラオケ店を出たときには運転者達が酔った歩き方ではなかったことなどを考慮し、2人の運転者が運転するのを制止する法的義務があったとまでは言えないとして、同乗者に対する共同不法行為の成立を認めませんでした。
ただし、死亡した被害者は飲酒運転を認識しながら同乗したことで、1割の過失相殺を受けています。
(※交通事故民事裁判例集 第39巻1号245頁掲載)