事業所で雇用したドライバーが過去にどのような事故や違反を起こしてきたか、チェックできていますか?
栃木県鹿沼市で発生した6名の児童が死亡した人身事故も、このようなチェックを行っていれば未然に防げることができたのではないかと思われます。
栃木県鹿沼市の国道で去る2011年4月18日(月)の朝7時40分ごろ、歩道を歩いていた小学校の登校児童の列にクレーン車が突っ込み、児童6人が死亡しました。
事故を起こした運転者(26歳)は「てんかん」の既往があり、前夜に薬を飲み忘れてその日の朝に服薬したのですが、薬が遅れたため運転開始後に発作で一時的に意識を失ったか、薬の副作用で居眠りに陥ったと推察されています。
この運転者は3年前にも車道から逸脱した同様の衝突事故を起こして小学生に重傷を負わせており、有罪判決を受けて執行猶予中でした。3年前の事故では「居眠りをしていた」と供述、持病の説明はしておらず、免許更新の際にも持病の申告をしていなかったということです。
仕事を失うことを恐れたのでしょうか、運転者は勤務先の重機会社にも過去の事故や持病の説明をしていませんでしたが、「若いので病気があるとは思わなかった」という弁明だけでは済まない大きな被害となりました。
服薬を怠った事は本人の大きな過失ですが、採用時に、自動車安全運転センター発行の無事故・無違反証明書か運転記録証明書を本人から提出してもらい、運転歴のチェックをしておけば、3年前の事故や過去の処分をチェックできたはずです。そこで事業所の管理者が事情を聞いていれば、適切な指導ができたのではないでしょうか?
専門医は、「てんかん」の既往のある運転者でも、発作が昼間でない人の場合など、医師の服薬指示や健康指導を守れば、安全運転が続けられると述べています。クレーン車で事故を起こした運転者も事業所の管理者と相談して、真摯な指導を受けていれば、このような事故を起こさずに済んだのではないかと考えられます。
トラック、バス・タクシーなど事業用自動車の場合、平成21年より新規採用のドライバーについては運転記録証明書等により、それまでの事故歴などを把握することが義務づけられていますが(★)、一般事業所に対して、法的な義務はありません。
しかし、大型特殊車や重機など危険な車を扱う事業所では自動車運送事業と同様の責任があります。さらに、そうした事業所に限らず、本来、危機管理意識をもって運転者の経歴をチェックすることが重要でしょう。
★ 国土交通省告示 『自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針』を定める件より (平成21年10月1日改正・施行)
●運転者として常時選任するために新たに雇い入れた者に対して……自動車安全運転センターが交付する無事故・無違反証明書または運転記録証明書等により、雇い入れる前の事故歴を把握し、事故惹起運転者に該当するか否かを確認すること。
●また、新たに雇い入れた者が事故惹起運転者に該当した場合は、特別な指導・適性診断を受けさせること。
※編集部注)…「指導・監督の指針」は平成13年施行の国土交通省告示ですが、平成21年に上記の改正がありました。このほか、運転者への指導・監督を実施した場合は、「日時・場所・内容・指導者・参加者」の記録を営業所で保存することが明記されました。
(2011年4月28日更新)