■特集 心神喪失による事故を防ごう―その2

2 運転中に意識を喪失して交通事故に陥る場合の責任

 もし、万が一運転者の意識が喪失して交通事故に至った場合、どのような企業責任が発生するか、判例を参考にして考えてみましょう。

■民事責任は通常の事故と同じように考える

心神喪失事故とは
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 まず第一に、従業員・職員の業務中事故である場合、使用者責任が発生するのは、一般の過失による事故と変わりありません。また、業務を終えて、自宅などに直帰する場合に起こった事故でも、運行供用者責任を追及される可能性があります。


 従業員が持病を自覚し、過去にてんかん発作や糖尿病による低血糖症状の経験があった場合、「意識喪失に対する予見可能性」があり、相当の注意をして運転をすべき責任があるので心神喪失発作中の事故であっても処罰されることがあります(判例はこちら)。


 このため、通常の見落としや信号無視による過失事故と同じく、企業が従業員の不法行為に対する使用者責任や運行供用者責任を免れることはありません。


 運転者が会社に持病の重大さを隠していたとしても、従業員の過失である以上、使用者としての責任が発生します。

■「不可抗力」でも運行供用者責任が発生する

運行供用者責任

 ただし、健康診断でもまったく病気の兆候がなく、既往症状もない突然の脳出血発作などのため、運転中に意識が失われてしまうことへの予見可能性がない場合はどうでしょうか?また、精神的な悩みからノイローゼに陥っている人が、運転中に一時的に予期せぬ心神喪失状態に陥ることもあります。


 この場合は、意識喪失による事故の予見は不可能であったとして、運転者自身の刑事責任が否定される場合もあります(判例はこちら)。


 企業の使用者責任については、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは」免責される規定がありますので、不可抗力による免責を主張できそうです。


 しかし、裁判所は、社員の事故には使用者の免責を容易に認めない傾向が強いので、実質的には無過失責任に近いと考えておくほうが無難と言えます。


 なお、運行供用者責任も企業に無過失責任を絶対的に負わせるものではありませんので、不可抗力による事故として運転者の不法行為が免責されるのであれば、免責を主張できそうですが、運行供用者はこのほか被害者保護の観点から、「第3者の故意又は過失があったこと」なども立証しなければならないので、実際には企業の民事責任を否定するのはなかなか難しいのが実状です(判例はこちら)。

■事業所の刑事責任について

 道路交通法第66条では、過労や病気など正常な運転ができないおそれがある状態で車を運転してはならないと定めています(過労運転等の禁止)。


 また、同法75条では、使用者(事業者)に対し、運転者に十分な休養を取らせず、正常運転できないおそれがある状態で運転させることを命じ、容認してはならないと定めています(過労運転等の下命・容認の禁止)。


 「てんかん」などの既往を知り、その運転者が通常の健常者に比べて運転中に危険な発作が起こることを予見しながら、事業所が長時間の運転業務等を命じていたような場合は、上記に該当する可能性があります。

 

 過労運転等下命・容認に対しては、平成19年の道路交通法改正で、最高刑が「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」から「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」に厳罰化されています。


 このほか、労務が過酷な関係で持病の発作が起こったと認定された場合は、労働基準法違反で罰則を受ける可能性もあります(判例はこちら)。

 

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◇参考:てんかん患者の運転免許取得について
 2002年の道路交通法改正で、てんかん患者の方も一部条件付きで免許取得が可能になっています──ただし、事業用自動車の運転はできません──
 【免許を受けられる条件】
 ・発作が再発するおそれがないもの
 ・発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの
 ・発作が睡眠中に限り再発するもの
 (道路交通法施行令第33条の2の3による)

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