「脳脊髄液減少症」に新しい診断基準

髄液漏れを画像診断と造影で判定する基準案

脳脊髄液減少症 診断

 脳や脊髄を包む脳脊髄液が漏れる「脳脊髄液減少症(「低髄液圧症候群」)」に関する厚生労働省研究班の中間報告書がこのたび公表され、新しい判定基準案を示すとともに「交通事故などの外傷による発症も、決してまれではない」ことを認めました。診断基準案がまとめられたことで、患者にとっては今後の損害保険の適用などに希望を持たせるニュースと言えます。


 研究班(代表=嘉山孝正・国立がん研究センター理事長)は、脳神経外科や整形外科など関係する学会の代表が加わって2007年度から研究をすすめ、「頭を高くしていると頭痛が始まったり、ひどくなる」患者100人を実際に診断・分析、16人について脳脊髄液漏れが「確実」と判断、「決して低くない頻度」と判定しました。


 新診断基準のフローチャート(案)では、「頭を上げていると30分以内に頭痛が悪化する」患者について、頭部と脊髄をMRI(磁気共鳴画像化装置)で検査し、硬膜の状態などを確認、両方かどちらかが判定基準に合致する「陽性」ならば、髄液漏れと見なします。

 

 陰性だった場合でも、造影剤を使った「ミエロCT」と呼ばれる検査や、微量の放射性元素で目印を付けた特殊な検査薬を使い脳脊髄液漏れを見つける「脳槽シンチレーション」などを組み合わせる──というものです。


 研究班は今後、治療分野の基準確立を目指しています。

補償を拒否されてきたケースが救済される可能性も

交通事故 脳脊髄液減少症 診断 フローチャート図
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 研究班では、診断のフローチャート等について各学会の了承を得る作業を並行して進めており、まとまれば髄液漏れの見逃しや過剰診断は無くなると見込まれています。


 現在、「脳脊髄液減少症」は、交通事故などの被害者の補償交渉をめぐって、損害保険会社や加害者側が「医学的にコンセンサスが得られていない」として支払いを拒んだり後遺症の判定で争いがあるため、訴訟となっているケースも見られます。


 患者自身の血液で脳脊髄液が漏れ出す場所をふさぐ「ブラッドパッチ」という入院治療法が有効とされていますが、検査段階から健康保険の適用を認める病院は少なく、高い病院では20万円から30万円の自費診療費がかかり、患者の負担が多くなっています。


 また、従来の国際頭痛学会の基準(2004年)に「ブラッドパッチで72時間以内に頭痛が消失する」とされているため、ブラッドパッチを受けた後も頭痛が消えない患者は、この基準を根拠とすると「髄液漏れ」にはならないとされ、補償を拒否されるケースがあるのです。


 ブラッドパッチの効果が少ないまま後遺症が続き補償を求める患者もいますので、患者団体は、否定されてきた髄液漏れの新基準が提案されたことで、損保業界側の姿勢が変わり事故の後遺症に苦しむ人の救済につながることを求めています。
 
※研究班:「脳脊髄液減少症の診断・治療の確立に関する調査研究」──日本脳神経外科▽日本整形外科▽日本神経▽日本頭痛▽日本脳神経外傷▽日本脊椎(せきつい)脊髄病▽日本脊髄障害医の各学会代表と、放射線医学、疫学・統計学の専門家が参加。

  詳しくは、研究班のWEBサイト、および厚生労働省の厚生労働科学研究成果データベース「疾病・障害対策研究分野 → 障害者対策総合研究」で「脳脊髄液」をキーワードに検索してください。

 

ブラッドパッチ療法の保険適用範囲
 平成22年4月13日付け厚生労働省保険局医療課の見解では、ブラッドパッチ療法の保険適用範囲は次のとおりとされています。詳しくは、同省の通知資料(pdf)を参照してください。

1. 症状や検査から低髄液圧症候群であると診断し、患者の同意を得た上で、ブラッドパッチ療法を施行した場合
 ・患者の同意が得られるまでに実施した検査等は、保険請求できる。
 ・ブラッドパッチ療法の施行については、保険請求できない。(全額自己負担となる)

2. ブラッドパッチ療法を施行して症状が改善し終診となった患者が、再度同様の症状等で受診し、検査等を実施した場合
 ・再度実施した検査等は、保険請求できる。

3.ブラッドパッチ療法を目的とした診療や、ブラッドパッチ療法による明らかな合併症のための診療は、保険請求できない。

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