前回、「情報共有の重要性」について述べましたが、ドライバー同士で共有している情報が、管理者には気づかれていないというケースもあります。その一つが、居眠り運転の実態ではないでしょうか。
ドライバー経験のある管理者ならピンとくるでしょうが、大事故には至らないので明るみにでない「居眠り運転」が非常に多いという実態があります。
ある運送会社のベテラン管理者M氏がドライバー達に、「運転中、仮眠しなければと思うほど眠くなることはないか?本音で話をしてほしい」と聞いたところ、高速道路では皆が居眠り運転の経験があり、「実際に何度か居眠りに気づいてから、休憩しなければと考える」と口々に答えたそうです。
ウトウトしても最初の2回目までは、ハッと目覚めてそのまま運転を続けるけれど、大体、3回目の居眠り運転から目覚めたときには「これはヤバい」と思って、サービスエリアに入るそうです。
一瞬の居眠りでも、前に停止車両があれば衝突します。つまり、偶然、高速道路上で路肩や本線上に車両がいなかったために事故が起こっていないだけで、「運よくぶつかる前に目覚めて助かっている」という背筋が寒くなるような実態があるようです。
実際に高速道路で発生した居眠り運転事故の事例をみると、何度か居眠りに近い状況を繰り返し自覚がありながら、サービスエリアなどで休憩するのを怠って運転を続け、最終的に、渋滞最後部や故障修理中の車などに激突しているケースが多いのです。
清涼飲料を配達する企業の管理者S氏も、「わき見によるスリ傷として上がってくる物損事故の多くは、どうも居眠り運転らしい」と感じています。
ボトルカーの左側塗料がはがれ、事故報告書には「わき見していてガードレールをこすりました」と書かれていましたが、ドライバーに電話で状況を聞いても、何に脇見していたのかはっきりしないので、直接呼び出して面談したところ、「実は最近、運転中に急に眠くなることがある」ということがわかりました。
そのドライバーはSAS(睡眠時無呼吸症候群)等の病的眠気ではなく、残業が続いて過労に陥っていて睡眠時間も短いという日常業務の偏りに問題があったので、シフトを変更して残業を減らし、休息を十分とらせて睡眠不足にならないよう営業の責任者に指導したそうです。
(※残業して23時頃会社を出ている社員が、翌朝7時に起床して皆と同じように8時半に出社しているならば、食事や入浴の時間を考えると睡眠できる時間は5時間がやっとということです)
また、S氏はその後、週に1回は門衛の警備員のところを訪れ、「最近、残業の目立つ社員はいないか」と情報交換をするようにしています。
トラックドライバーなど業務で夜間運転をしている人は、眠くなってもなかなか車を止めることができない事情があります。
そこで、前述の管理者M氏は、「勇気を持って車を止め、きちんと寝よう」というキャッチフレーズを打ち立て、社内はもちろん、協力会社のドライバーにも機会あるごとに呼びかけ、標語として社内にも掲示しています。
ドライバーも最初は、「そんなこと言っても、時間通りに着かなければ仕事にならない」と、話半分に受け取っていました。
しかし、「遅れても構わない。居眠り事故を起こしたら、会社もドライバーも仕事を失うことになる」と会社の姿勢であることを何度も繰り返すなかで、「今から、朝まで寝ます」と勇気を持って連絡してくる人が出始めて、皆の意識が変わり始めたということです。
また、「到着が遅れる場合の連絡は、ドライバーからではなく、事務所からする」ことをルール化して徹底したことも、ドライバーが休みやすくなった理由の一つと言います。
「遅れてもいいから休めよ」と口頭で言う管理者・配車係はいるのですが、「悪いけど、今忙しいから君から先方に連絡して」というケースが多いのです。ドライバーから荷主や届け先に「遅れます」とは連絡しにくいので、結局、無理をすることになります。
居眠運転をなくそうと本気で取り組むのであれば、ドライバー個々の判断で連絡するのではなく、会社が遅延を認め、会社を代表して配車係や管理者が「すみませんが……」と連絡するべきでしょう。
なお、仮眠をとる場合、20分程度で疲労回復効果を発揮することもありますが、仮眠直後すぐに出発すると、眠気が残っていて居眠り運転に陥るケースもあります。仮眠後は、自動販売機の前など明るい光を浴びる場所で身体を動かし心身を目覚めさせる措置が必要です。
また、仮眠をしてもすぐ眠気が襲ってくるような場合は、4時間以上のまとまった睡眠をとるようにするほうが効果的です。
4時間以上眠れば、運送事業の場合は分割休息期間(※)としてもカウントできることがあるので、管理上もメリットがあります。
1日の休息期間は、継続して8時間以上とる必要がありますが、「業務の必要上、勤務の終了後継続した8時間以上の休息期間を与えることが困難な場合は、……(中略)、休息期間を拘束時間の途中及び拘束時間の経過直後に分割して与える」ことができます。
この場合、分割された休息期間は、1日につき1回当たり継続4時間以上、合計10時間以上でなければなりません。
(分割休息は一定期間における全勤務回数の2分の1までが限度)
点呼の実施は運送事業者の義務ですが、いざ、ドライバーと向き合ったときに何を話せばいいのか、戸惑う管理者も少なくありません。
DVD「やっていますか安全点呼」は、トラック運送事業の安全運行のために欠かせない「点呼」のポイントを管理者とドライバーのやり取りによって具体的に紹介していますので、毎日の点呼の参考にしていただくことができます。
乗務前点呼はもちろん、乗務後や中間点呼まで点呼者が忘れてはならないチェックポイントを理解することができます。