◆発作の予見可能性があったと認定
最近、相次いでいる「てんかん発作」が関連した交通事故の判決公判が、2011年8月8日、広島地裁福山支部で開かれました。
アルバイト警備員(38)が、てんかん発作が原因で事故を起こし、小学生4人に重軽傷を負わせたとして自動車運転過失傷害の罪に問われたもので、同支部の裁判官は禁錮1年(求刑禁錮1年2月)の判決を言い渡しました。
検察側は被告がこれまでに少なくとも2回、てんかん発作が原因とみられる事故を起こしていたことや、医師から運転を止められていたことを指摘していました。
判決理由では「てんかん発作で事故を起こす可能性を認識しながら運転を継続した」と指摘され、「免許が無いと通勤が不便になるため更新の際にも意識喪失の事実を伏せていた。事故は偶発的ではなく、無自覚で安易な姿勢は厳しい非難に値する」と述べました。
◆1年から1年半の割合で発作を再発
弁護側は「てんかん発作による事故を予見できた可能性は低い」と主張、執行猶予付きの判決を求めていましたが、裁判官は、「処方されたてんかん薬を服用していても、1年から1年半の割合で発作が起こっていた」と指摘し、「過去の事故の記憶を失っている上、公判で供述を変更する態度は心から反省しているとは認めがたい」として、弁護側の主張を退けました。
《事故の概要》
軽乗用車で集団登校の列に突っ込む
この事故は2011年5月10日午前7時45分ごろ発生しました。
福山市藤江町付近の県道を走行していた軽乗用車が対向車線側へ逸脱し、そのまま道路右側の歩道に乗り上げて、集団登校中の小学生10人ぐらいの列へ後方から突っ込みました。
衝突で小学5年生の男の子が全身強打の重傷、児童3人が打撲などの 軽傷を負っています。
警察は運転していた38歳の男を現行犯逮捕、当初、男は「ボーッとしていて、事故を起こしたときの様子は覚えていない」などと供述していましたが、その後の調べで「てんかん発作の症状」があることが判明しました。
◆発作の「予見可能性がなかった」と
認められれば無罪のケースも!
てんかんや精神神経疾患、脳内出血など、病気による意識喪失発作が起こって交通事故となった場合は、発作の予見可能性が問題になります。
過去の判例ファイルでも紹介しましたが、突然のことで、発作が予見できなかったと認められ、無罪判決や起訴猶予となったケースもあります。 → 判例はこちらへ
◆損害賠償責任は刑事責任とは分けて考える
ただし、交通事故の刑事責任が追及されない場合でも、損害賠償責任は発生します。運転者の不法行為ではない場合でも、運行供用者責任があるからです。
無罪の心神喪失事故においても、損害賠償を命じた判例があります。
◆「てんかん」患者に対する運転免許の経緯
なお、以前の道路交通法では、「てんかん患者」は運転免許の絶対的欠格事由とされ免許証が取得できませんでした。
しかし、2002年、「障害者に係る欠格条項の見直しについて(平成11年8月9日障害者施策推進本部決定)」に基づき道路交通法に対して見直しが行われ、てんかんの既往のある人でも、また服薬中であっても、発作が抑制されていると認定された場合には、運転免許の取得が可能になるよう改正されました。
「道路交通法施行令第33条の2の3」の規定に基づき、以下のような条件のいずれかに合致するときは、免許の拒否等を行わないことになっています。
・発作が再発するおそれがないもの
・発作が再発しても、意識障害及び運動障害が
もたらされないもの
・発作が睡眠中に限り再発するもの
(ただし、8トンを超える中型・大型車の免許や運転を職業とする免許は取得に制限があります)
最近、重大事故を起こした「てんかん患者」運転者の中には、免許更新時に過去の発作や事故を隠して事故を再発しているケースがある一方で、多くのてんかん患者の方々は治療や生活の自己管理に努力を払って安全運転をしている事実があります。
◆「てんかん」等の運転免許手続きに注意を促す通達/警察庁
警察庁は、去る4月18日に発生したクレーン車の重大事故発生を受けて、都道府県の運転免許課に「一定の病気にかかっている者等に係る運転免許手続における留意事項」と題する通達を出し(2011.5.9付)、運転適性相談に関する周知の徹底をはかるとともに、以下のようなポスターの掲示、リーフレット配布を指示しました。
(詳しくは警察庁の通達を参照)
◆「病名」より「病態」を見ることの重要性
これに対して、てんかん患者への社会援護活動や一般への啓蒙活動を行っている「日本てんかん協会」では、最近の重大事故に関連して、「てんかんのある人に対し適切な治療を受けることへの助言・援助と、法に則った運転免許取得に関する啓発活動を引き続き推進していきます」という趣旨の声明を公表し、社会の理解を求めています。
さらに、同協会の声明によると「職場にてんかん等の病名を告知し、条件を満たして運転免許を所持していた人が、重大事故の発生を受け、会社からしばらく運転をしないよう命じられるという事例も生じている」ことがあるそうです。
同協会では「病名による差別と偏見を助長しないために」、全国に通知された先の警察庁例示資料のうち、「別紙1(ポスター)および別紙4(リーフレット)は、次のように変更をしてください」という要望書(※)を提出しています。
事業所でも、従業員のなかに持病などを申告した人がいる場合、病名だけにとらわれるのは禁物です。持病があっても自己管理できている人がいる一方で、病気に対する知識・自覚が薄いために危険な人もいるからです。
このような資料を参考に、きちんと病気を管理しているかどうかを把握して、運転に関する指導を考えるべきでしょう。
(※詳しい内容は 同協会のWEBサイトを参照してください)
(2011年8月24日更新)