「ドライバーが不安というなら、納品が遅れてもいいから現場で徹底的に調査して解決させる」。あるベテラン運行管理者の言葉が印象に残りました。
納品トラブル等が発生するときには、ドライバーだけの責任ではなく、配車マンや管理者が「トラブルの芽」を摘む意識が甘く、問題を見過ごしている場合が少なくないのです。
ある事業所で、配車マンにドライバーから連絡が入りました。
「荷積みの時、ミスがあって少しだけダンボールに傷がついたのですが、荷主のリフトマンはこれくらいなら大丈夫だよと言ったんです」
配車マンは、ドライバーに戻ってもらって荷主の責任者に確認してもらうべきかとも思いましたが、「急がないと納品時間に遅れます・・・一応電話で確認しといてもらえますか?」というドライバーの言葉に乗って、「わかった!連絡しとくわ」と言ってその場を済ませました。
しかし、貨物が手元にないので荷主側も貨物事故かどうかの判断はできず、曖昧なまま、その商品は荷送先の商店の棚に並んでしまいました。
商店側にとっては「大したことはない」傷ではなかったため「欠陥品」として返品され、運送会社がペナルティを受けることになりました。一時は、荷の傷を知りながらそれを隠して納品した「隠蔽」まで疑われ、大きなトラブルに発展したのです。
ドライバーが連絡してくるのは「問題がある」ことに気付いて不安を感じているからであり、現場で本人に解決させずに「電話しておく」と曖昧に処理してしまうと、ドライバーの責任が転嫁されてしまいます。
また、相手先の責任者以外の人が「大丈夫だ」と言ったからといって何の保証もありません。
たとえ遅れても仕方ないので、そのドライバーに戻ってもらい自分で確認させることです。「配車マンや管理者が処理してくれる」と思ったら、ドライバーはたとえ疑問に思っても、現場でトラブルを徹底的に解決するようにはなりません。
ドライバーが戻って責任者に確認することで、荷積みをやり直す恐れもあり、管理者も納品遅れを先方に謝罪することになり、確かに面倒です。
しかし、そのことで、ドライバーは二度と同じミスを現場で見過ごさないようになります。その後は、「少しでも傷がついたら受け取れません」と言うようになり、責任者にもきちんと自ら確認するようになるからです。
このように、トラブルの芽は最初はたいした問題には見えないことが多いので、気になっても、つい後回しにすることが少なくありません。しかし、その姿勢が、危機を招くことも少なくないのです。
ある工場で、ドライバーの扱うフォークリフトが作業者と接触し骨折させる事故が発生しました。骨折事故自体は大したことはなかったのですが、そのドライバーはフォークリフトの運転資格を持たなかったので労基局の調査を受けることになりました。
協力会社に輸送を依頼したとき、配車マンは口頭でリフト資格を確認したのですが、協力会社側が「事故発生時の責任問題もあるしリフト作業はできればさせたくない」と言いました。この時、配車マンは小さな疑問を感じました。しかし、まあ工場にもリフトマンはいるしいいだろうと軽く考え、書類でしっかり確認しなかったのです。このため、無資格作業による事故となりました。
不安を感じた時は、徹底的に調べることが大切です。資格のいる業務は書類確認が基本です。資格をもつドライバーが手配できない場合は、リフト作業は荷主側に求めるべき状況だったのです。
小さな不安でも見逃さないで各自が対処するということは、メーカーの生産現場の品質管理ではすでに常識になっています。
小さなネジ一つでも、床や作業台の上に落ちていたら必ず拾い上げ、なぜそこにネジがあるのか調査することなどを徹底しています。高い技術水準を守るためには当然のことでしょう。しかし、多くの仕事の現場では、まだまだ不安を感じても見逃しているものが多いのではないでしょうか?
たとえば、医療現場の調剤ミスや処方事故の多くが薬のビンや容器が似通っていることから起こっています。
「自分が薬を間違えるのでは」という不安に敏感な薬剤師や看護師は、職場で話しあい、よく似た容器には別に大きなラベルなどを貼って、間違えないように自分達で予防措置をとったり、メーカーに注文して色などを変えさせているそうです。しかし、そうした努力をしていない医療現場もまだ少なくありません。
運転の現場でも、ドライバーや管理者などそれぞれの立場で、少しでも不安を感じていることがあれば、自分をごまかさないで、解決する労をいとわないことが大切です。