全国労働衛生週間が始まります(10月1日~7日)。
労働安全衛生の徹底と健康管理に今一度目を向けておきたい時期です。とくに健康問題については、交通事故に結びつく例が多発している反面、健診情報の収集が難しくなっているので、注意しましょう。
横浜市で、乗用車を運転中に糖尿病の影響で意識障害を起こして操作不能になり、バイクのライダーなど3人を死傷させた会社員(56歳)が、禁錮3年の実刑判決を受けた例があります(平成22年7月16日横浜地裁判決)。
裁判では、「事故は糖尿病治療薬により低血糖状態となって意識障害に陥り、アクセルを踏んだままの状態となり、信号待ちの車や対向車に衝突した」とされ、「変調が低血糖状態の前兆であることは認識できており、記憶を喪失するまでの間に運転を中止することも可能だった」と認定され、有罪判決が下ったものです。
ドライバーの健康問題を知らずに、業務中にこのような事故が発生すれば大変です。企業が責任を追及されることも考えられます。
今年4月に鹿沼市で起こったクレーン車の小学生死亡事故では(てんかんの既往あり)、遺族側が会社に損害賠償を請求する方針と報道されています。
労働安全衛生法では、企業に定期健康診断とその記録の作成・保存(5年間)を義務づけています。
しかし最近は、「個人情報保護」の名目で、医療機関が健康診断結果を直接ドライバーの自宅に送付したり、会社に一括送付する場合も個人宛に封をした親展書類として届くので、診断結果を把握し記録することができない事業所があります。
個人情報保護法や厚生労働省のガイドラインを調べてみると、企業が実施する健康診断結果を企業に知らせることは「法が禁ずる第三者への情報漏えい」にはあたりません。
医療機関が本人の同意なく第三者に個人の健康診断結果を渡すことは許されませんが、ガイドラインでは、法令に基づき健診を委託した企業等に対しては「本人の同意が得られていると考えられる※」とされています。つまり検診結果に関して、企業は第三者とは言えないということです。
労働安全衛生法の趣旨に照らしても当然のことです。
ただし、企業が入手した健康診断結果は、「姓名、生年月日や住所などの情報」と合わせると個人情報保護法のいう「個人を特定する情報」になり得ますので、企業はドライバーの健診情報を管理し、プライバシー保護を徹底する責任を持っています。
しかし、こうした事実を説いても、医療機関は個人からの訴訟などを恐れているので、容易には個人配布の姿勢を崩さないことがあります。
そこで、健康診断を実施する前に、「法令に基づき会社が実施する健康診断の結果については、会社も直接医療機関からデータを入手することに同意します」という同意書をドライバーから提出してもらいましょう。
資料の管理については会社が責任をもつことを約束すれば、ドライバーは診断結果をコピーさせてくれるでしょう。
また、同意書を示せば、医療機関も結果を会社宛に送付してくれるようになります。
なお、就業規則などにも、健康診断の受診義務と検診結果を会社が把握することを定めておくことです。
労働安全衛生法で定められた「健康診断個人票」を作成する場合、まず第一に気をつけるべきことは、とくに最近増えている高血圧・糖尿病などの生活習慣病や、心臓・血管系の疾病の管理です。
これらは運転中の発作などにも結びつきやすい病気ですが、病名や診断数値だけ見ても病態は把握できず、運転への影響はわかりません。
ですから、ドライバー個人と面接して、
・どのような薬を服用しているのか
・医師に運転業務を報告して助言を得ているか
・深夜運転をする場合は、特別な薬の処方をしてもらっているか
(服薬回数の調整など)
・運転中に気分が悪くなったことはないか
──などの点を確認しましょう。
本人があまり医師とコミュニケーションをとっていないようであれば、管理者から産業医などに相談してアドバイスを得ておくことも必要です。
また、本人の自覚を促すために、下のような健康チェック表を手渡して自己チェックさせ、それを参考にして指導するのも一つの方法です。
・国土交通省作成の「健康管理マニュアル」を参考にして作成しました。必要な方は
ダウンロードツールページからエクセルファイルをダウンロードしてください。
生活習慣病の予防には、十分な睡眠や規則正しい生活とともに、食生活の改善が重要です。
多忙な営業マンやドライバーは外食が多くなり、食生活に乱れが生じやすいのですが、いつも一人で食べていると味気がないものです。
休日には、できるだけ家族一緒に食事を取るなどして、一家団欒の楽しい食事を心がけるように指導しましょう。
※ 厚生労働省の資料
「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」(平成16年12月24日発表、平成22年9月17日改正)
5.個人データの第三者提供 ──(3)③より
「医療機関等が、労働安全衛生法第66条、健康保険法第150条、─(略)─等により、事業者、保険者又は市町村が行う健康診断等を受託した場合、その結果である労働者等の個人データを委託元である当該事業者、保険者又は市町村に対して提供することについて、本人の同意が得られていると考えられる。」(以下略)
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・事故に結びつく健康リスクを意識しよう⑦──睡眠の重要性
【 小冊子 ── 健康管理と安全運転 】
この冊子では、ドライバーが健康管理を徹底していなかったために発生したと思われる、重大事故等の6つの事例をマンガで紹介しています。
各事例の右ページでは、垰田和史滋賀医科大学准教授(医学博士)の監修のもと、日々気をつけなければならない健康管理のポイントをわかりやすく解説しています。
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