運転や作業の安全を確保するためには、さまざまな手順が決められています。ところが、現場で勝手にその手順を変えてしまい、事故が発生することがあります。
今回は、そうした現場での手順やルールの変更に対する管理について考えてみましょう。
ある運送会社では、飲料メーカーから大型(200リットル)の飲料コンテナを運送する業務を請負っていました。
その飲料コンテナはコロ付き(4角に車輪付き)で転がせるタイプでしたが、トラックの荷台から荷卸しする時に、手前に転がそうとしてドライバーがつまづき、コンテナがドライバーの身体の上に落下して重傷を負うという事故が発生したのです。
本来、このような事故が起こらないように、飲料コンテナは専用のパレット(4角の車輪が浮くように特殊な構造となっている)に固定して積みつけておき、そのパレットごとリフトで降ろす作業ルールが定められていました。
しかし、運送現場では手順を変更し、パレットを使わずにコンテナを荷台にじかに置いて車輪のストッパーを止めて積み込み、荷降ろし時にストッパーを解除して飲料コンテナを降ろしていたのです。
事故が起こった原因の一つは、ドライバーが専用パレットに積むという手順を省いたために発生したのですが、他のドライバーの間でも広範囲に行なわれていた「手抜き」作業でした。しかし、管理者側では、事故が発生するまでこのような作業手順の変更に気づいていませんでした。
管理者が調べたところ、別のドライバーは、専用パレットを使っていてもトラックからの降ろし方に「手抜き」をしていました。
パレットごと降ろすと、地上でパレットから飲料コンテナを降ろす作業をもう一度しなければならないので、トラックの荷台からコンテナを積んだパレットを 半分だけ出し、リフトのフォークを差し替えてコンテナだけ支えてピッキングし、パレットはそのまま滑らせて荷台から落下させる「パレット落とし」作業をしていたのです。
新人ドライバーの中には、これが正しい方法だと先輩から習ったという人もいたぐらいですから、ドライバーは「良い方法だ」と考えて作業していたのです。
安全作業マニュアルはあったのですが、下請業者やドライバーには徹底されていませんでした。
飲料コンテナに車輪がついていることで、作業が通常の荷卸しより手間がかかるため、このような勝手な手順変更が起こったと考えられます。
一般に、「守るべきルール」が多いほど、それを避けようと手抜きが始まります。ルール違反を厳しく指導するだけでなく、同種の事故を防ぐためには、なるべく守りやすい簡単な作業ルールにすることが大切です。
この場合は、パレットを降ろしやすいように改良したり、作業の手順をビデオに撮影して、その手順を見ながら皆で練習するなどして、作業に慣れさせることで逸脱を防ぐような工夫が必要です。
さらに、コンテナに車輪がついて転がることが危険要因ですから、コンテナから車輪を取ってしまい、荷卸し時には通常の荷物と同じ作業にすることができれば、荷卸しについては作業手順の簡素化に繋がります。コンテナとは別の車輪付きの台を用意し、荷送先ではその台に乗せて運ぶという方法があります。
作業や運転でエラーを完全になくすのは無理ですが、ヒューマンエラーを減らすために作業手順等を管理する姿勢が常に必要です。
●なぜ変更が起こったのかを皆で考える
現場で勝手な作業変更をされては困るので、定期的に現場をパトロールして、マニュアル通りに実施しているかチェックする必要があります。前述のように安全マニュアルの映像化なども効果的です。
さらに、何故、マニュアル通りの基準作業ができなかったのか、事故を起こした本人からだけでなく現場の人達から意見を聞くべきでしょう。
手抜き作業が日常化していたのなら、それは何故か?皆の本音を把握しておく必要があります。
●ルールの簡素化を検討する
作業の見直しも検討すべきです。現場の意見を聞いて、もっと簡便で、なおかつ危険の少ない作業ができないかを考えましょう。
たとえば、ある工場では、以前はトラックが正門から入って、所定の場所に行くまでに5回は一時停止をしなければならない経路を取っていました。急いでいて停止しないトラックもいたので歩行者と接触事故が起こり、走行速度を10キロにするなど、さらに厳しいルールを現場に課すことになりました。
そこで、工場長は現場と相談して、トラックの経路に歩行者が入れないようにするほうが安全と判断し、新たに歩行者用の経路を作成したところ、安全かつスムーズに荷の運搬ができるようになったということです。
ある程度コストや手間は必要でも、現場の意見を聞いて、改善をすすめる努力を惜しまないことが管理者の務めです。
(2011.10.14更新)