職業ドライバーの疲労問題

関西疲労懇話会

 2011年10月17日、大阪産業創造館において、関西疲労懇話会主催による「第3回関西疲労懇話会」が開催されました。「職業ドライバーの疲労問題」をテーマに、専門家による講演やパネルディスカッションが行われました。


 今回は労働科学研究所所長の酒井一博氏による講演「運転者の過労状態と過労運転」とパネルディスカッションを取り上げて紹介します。

疲労懇話会とは…
疲労懇話会は、医学、工学の研究者によって得られたメンタルヘルスや疲労についての研究結果を、民間の企業や市民と共有し、ディスカッションをすることによって、広く社会にメンタルヘルス、疲労についての知見を広める目的で開催されています。平成21年10月に第1回が開催され、今回が3回目の開催となります。

◆運転者の過労状態と過労運転

 まず、事業用自動車の交通事故の発生状況から浮かび上がる、運転者の過労状態と過労運転の現状について労働科学研究所の酒井一博氏が講演を行ないました。

日常化する過労運転

 写真はシートで仮眠をとるドライバーです。このような姿勢で眠ると、苦しくなって目覚まし時計がなくても目が覚めるということです。


 これは、中小の事業所のトラックに同乗した4泊5日の調査において撮影されたものですが、ベットでまとまった睡眠をとれたのは1度だけという過酷な勤務実態が紹介されました。

安全運転義務違反の多くは疲労・過労運転が原因

 トラックは事故に占める追突事故の割合が高く、ハイタクが14.0%、バスが20.3%なのに対し、トラックは47.2%にのぼります。


 また、安全運転義務違反として扱われた交通事故件数は、業態別にみるとトラックが81%と最も多くなっています。
 安全運転義務違反の中身を見てみると、「安全不確認」、「脇見運転」、「動静不注視」、「漫然運転」となっています。酒井氏はこれら安全運転義務違反による交通事故は結果であって原因ではないと述べ、その背景には運転者の健康問題や過労運転による集中力の欠如があるのではないかと指摘しました。


 つまり過当競争によりドライバーの労働環境に負荷がかかり、過労運転が日常化していて、居眠り運転による追突事故が起こるべくして起こっているのです。

進まない過労死の再発防止

 平成22年の過労死認定は285件ありましたが、その内の57件(20%)がトラック運転者でした。
 また時間外労働時間数別の過労死認定件数を見てみると、認定件数の84%が月の時間外労働時間が80時間以上となっています。


 しかしながら、このように過労死として認定されたトラック運転者ですら、どのような働き方だったのか、また、どんな健康管理が実施されていたかなどは情報開示がされていません。このことが再発防止の取り組みが進まない大きな原因となっています。


 また、行政の問題点として健康管理に有効な対策を打てていない現状があります。運行管理は国土交通省が所管し、健康管理は厚生労働省が所管しています。こういった縦割り行政が過労運転を防止するための有効な手段を打ち出せない原因になっているのです。

安全運転のためのプラットフォームづくりが必要

 このような現状を打開するには、トラック業界や荷主、行政、研究者が協働して「安全運転のためのプラットフォームづくり」をすすめていく必要があります。


 具体的には、運輸安全マネジメントシステムの中小企業への展開の支援や、ITを使って運行中の運転者を支援するシステムの開発、運行管理と健康管理の融合などがあげられました。


 また、健康診断の実施はもちろんのこと、生活習慣病の予防にも気を配り、点呼時においても、運転者の様子に異常が見られないかを確認することが必要であると訴えました。

◆疲労運転の原因となる社会的背景にどう対応していくか

 講演終了後には「安全・快適な運転環境と眠気・疲労対策」としてパネルディスカッションが行われました。


 まず、産業医である岡田邦夫氏が運転業務に影響を与える疾病として、緑内障などの視力関連、脳梗塞などの心臓・脳血管障害、そして長時間労働などによる脳・精神疾患、睡眠障害等をあげました。


 とくに過労運転による居眠り運転の事故事例を紹介し、「頑張れば正社員になれる」とか、「無理をしないと仕事がなくなる」といった切実な問題があり、そういった社会的背景にどう対応していくかという問題提起がありました。

従業員の健康を守ることが収益につながる

 つづくディスカッションでは、「零細の運送会社では健康診断すら受けさせていない現状がある」と指摘され、それに対しては、「業界としてサポートしていかなければドライバーの健康管理はおぼつかない」といった意見が出ました。


 会社にとっては、健康診断を受けさせるだけでもコストがかかり、それ以上の健康管理となると二の足を踏んでしまう現状があります。
 しかしながら「一時的にはコストがかかっても、結果的には健康管理や職場環境の改善を行うことによって、収益をもたらした事例もあり、こういった事例を経営者層にアピールする必要性がある」といった意見が出されました。

抗疲労をサポートする機器への期待

 疲労は他人が見ても気づきにくいものです。ですから客観的に疲労を測定することができれば、運転者の健康管理に大変役立ちますが、簡単に測定するには難しいものがあります。


 「すでに自律神経機能を測定して、疲労を客観的に測定するシステムが実用化されています。一部の企業では活用されていますが、コストの問題があるので、普及価格帯での機器の開発がすすめばより多くの企業で活用されることが期待されます」といった報告や、「仮眠の際に、疲れが回復したところで起こしてくれるといった快適かつ効率的な睡眠をサポートする機器も開発が進んでいる」という紹介もあり、抗疲労をサポートする機器の普及にも期待が高まっています。


 また来年度には、健康診断時にストレスチェックを導入することが法制化される予定で、「問題のあった従業員は産業医と面談することになり、この時点で多くの慢性疲労が見つかるのではないか」といったことも紹介されました。


 このような活発な意見が交され、盛会裡に懇話会は終了しました。

第3回関西疲労懇話会データ

 

・日時 平成23年10月17日(月)16:00~18:20

・会場 大阪産業創造館6F会議室

・主催 関西疲労懇話会

・プログラム

 ──講演1 「運転者の過労状態と過労運転」

     労働科学研究所所長 酒井一博

 ──講演2 「心拍変動解析から得意信号として得られる道路と運転の状況」

     横浜国立大学工学研究院教授 小泉淳一

 ──パネルディスカッション 「安全・快適な運転環境と眠気・疲労対策」

 

〈パネリスト〉
・大阪健康サービス産業創造協議会 事務局 卯津羅泰生
・大阪ガス株式会社人事部健康開発センター 統括産業医 岡田邦夫
・関西福祉科学大学健康部福祉学 教授 倉恒弘彦
・横浜国立大学工学研究院 教授 小泉淳一
・労働科学研究所 所長 酒井一博
・兵庫県立総合リハビリテーションセンター小児科 医長 田島世貴


〈司会〉

理化学研究分子イメージング科学研究センター チーム長 片岡洋裕

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12月24日(火)

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