最近、自転車による歩行者被害などが目立ち、事故防止に対する社会の目が厳しくなっています。
社有車やマイカー通勤車両の安全指導については、一定の対策をとっているでしょうが、自転車についても企業のリスクマネジメントとして事故防止対策が万全か、考えておくべき時期に来ています。
2008年1月、福岡市博多区で左折のみ可能な一時停止標識のある交差点から自転車が一時停止をせずに直進し、国道を直進してきたオートバイと衝突、オートバイのライダーが対向車線に投げ出され、対向車にひかれて死亡する事故が発生しました。
この事故で自転車に乗っていた26歳の男性が「重過失致死罪」に問われ、福岡地裁は2009年9月18日、「一時停止や左右の安全確認を怠ったのは重大な過失にあたる」として禁固1年、執行猶予3年(求刑・禁固1年4月)の有罪を言い渡しました。
被告側は無罪を主張して控訴しましたが、控訴審の福岡高裁も一審判決を支持して控訴を棄却しました(2010年3月10日判決)。
さる5月12日、大阪で発生したタンクローリーによる歩道上の歩行者2名死亡事故でも、直前に車道を横切った自転車の男性に責任があるとして、重過失致死罪で逮捕されています。
※大阪の事例はその後禁錮2年の実刑判決を受けています。→ こちらを参照
※自転車事故による運転免許証の処分例もあります。 → こちらを参照
さらに、従業員が自転車による事故を起こした場合、事業所の使用者責任が発生する可能性があります。
①自転車を業務使用していた事故の場合
運送業務や営業・連絡業務などで、従業員が自転車を使用して交通事故が発生した場合、たとえその自転車が私用物であったとしても、事業所に使用者責任が発生することは当然です。
民法第715条(使用者等の責任)は、「使用する者が事業の執行中に第三者に加えた損害を賠償する責任がある」と定めていますから、車両が四輪車であっても自転車であっても違いはありません。
②自転車を通勤に使用していた事故の場合
通勤の場合も、マイカー通勤車両の事例を参考にして考えると、自転車通勤事故で使用者責任が発生する可能性はあります。
通常、「業務に使用しないマイカー通勤車両の交通事故は個人の責任」と解されていますが、使用者責任を認めた判例があります。
「公共交通機関を利用するのが困難な状況であって、事業の遂行に従業員の自動車通勤が不可欠であり、通勤のための自動車運転は業務と密接な関係があると評価できる」としてマイカー通勤車の交通事故に使用者責任を適用、被害者への損害賠償を命じました(神戸地裁平成16年7月7日判決)。
最近は、「エコ通勤の奨励」などで企業が従業員の自転車通勤を積極的に推進している例もあります。こうした背景のある事業所では、自転車事故も企業責任の範囲と考えて通勤時の安全指導が必要です。
(※自転車事故の損害賠償例については → こちらを参照)
自転車安全対策への強い要望を受けて、警察庁も平成23年10月25日「良好な自転車交通秩序の実現のための総合対策の推進について」という広報資料を公表し、一部で自転車通行可歩道の見直しや自転車横断帯の撤去などを行うとともに自転車の取締りや指導に力を入れていますが、マスコミなどの報道から一部誤解もあるようなので、事業所での指導には慎重を期してください。
①自転車も「車両」であることの啓蒙
対策の目指すものは、自転車も「車両」の一部であり、歩行者と同列ではないこと。歩道上の通行などには十分に注意して歩行者保護に努めることなどが主眼であり、自転車に危険が増すようでは、本末転倒です。見直しはあるにしても、依然として自転車が走行できる歩道はありますので、「自転車は歩道を走れなくなった」といった情報提供は間違いであり、歩行者優先というルール順守の指導こそが重要です。
②「歩道が安全・車道が危険」とは限らない
自転車は交通量の多い車道を走行するよりも、歩行者と自転車が分離された歩道を走行する方が安全な場所があります。しかし一方で、自転車と四輪車の事故の多くが「自転車が歩道を走行中、交差点に差し掛かったときに発生している」という事実があります。
たとえば、細い道路から幹線道路に合流する交差点で、車両が歩道の安全確認を怠って左側からやってきた自転車と衝突する例や、コンビニやレストランなどの出口で歩道を横切るとき、歩道上をやってきた自転車と衝突する事故が多発しています。
こうした状況では、自転車が車道を左側通行していた場合、幹線道路に出てくる四輪車との距離が比較的離れて発見しやすいので、事故が発生しにくいと考えられています。このように、歩道を走行する自転車が車との事故に遭いにくいと一概には言えないのです。
③経路指導を行う
製造メーカーなど以前から自転車通勤の多い事業所では、自転車通勤の場合も通勤マップの提出を義務づけて通勤経路を調べ、自転車の走行できる歩道やそうでない歩道、工場入口ではどの方向から入れば安全かなどを指導しています。自転車にとって危険な道路を走行しないように指導することも重要です。
自転車通勤などをする従業員には事故の事例などを紹介して、歩道上だからといって自分が安全とは思い込まずに、交差点での安全確認や歩行者への安全確認など、自動車のドライバーと同じようにきめ細かい危険予測が必要であることを指導しておきましょう。
自転車の交通事故、とりわけ歩行者を死傷させた場合は高額の損害賠償を求められるケースもあります。自転車の業務使用に関して、損害賠償保険の付保をチェックしておきましょう。自転車には自賠責保険のような強制保険はありませんので、自転車毎にあるいは個人別に以下のような保険を付保する必要があります。
①TSマーク付帯保険
自転車販売店などで点検・整備料を払ってTSマークを貼付してもらい、自転車に自動付帯される保険です。(財)日本交通管理技術協会の団体保険であり、死亡若しくは重度後遺障害(1~7級)に対して最高2,000万円までの損害賠償補償が受けられます。傷害補償も100万円を上限に支払われます。
②傷害保険の損害賠償特約
個人や家族契約の傷害保険に損害賠償特約をつけて自転車による損害賠償に備えるものです。最大3,000万円から5,000万円程度の特約が可能です。また、ドライバー保険に自転車運転時の賠償特約をつけられる場合もあります。
③自転車専用の損害保険
自転車専用の損害保険も最近は復活しつつあり、コンビニエンスストアで加入できる最高3億円賠償の保険や、携帯電話料金で購入できる保険や、月々数百円からの自転車保険など手軽な保険が登場しています。こちらは個人加入の保険です。
また(財)日本サイクリング協会(JCA)の賛助会員になると、会員特典としてJCA自転車総合保険が付帯され、賠償責任補償が受けられます(年会費4,000円)。
※民法第715条(使用者等の責任)
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
(2011.11.14更新 シンク出版編集部)
自転車の運転に免許証は必要ありませんが、そのため、交通ルール・マナーを十分に理解しないまま危険な運転をしている人が後をたちません。
このテストは日頃の自転車の運転を振り返り、48の質問に「ハイ」「イイエ」で答えることで、普段どれぐらい自転車を安全に運転できているかを簡単に知ることができるテストです。
診断結果をみて反省することで、日々の自転車の安全運転に活かすことができます。
小冊子「軽く考えていませんか?自転車事故!」は、自転車事故の代表的な事例を6つ取り上げ、ドライバー、自転車利用者双方にどのような過失があったかを考える内容になっています。
それぞれの過失の態様や意識のギャップを知ることで、どのような不安全行動が事故に結びつくかを理解することができ、ドライバー、自転車利用者双方の教育に最適な教育用教材です。