物損事故の原因分析をしていますか

 前々回は、物損事故の報告漏れに関する危険について指摘しましたが、警察や社内への事故報告はあっても、物損事故の事故原因分析をしていない事業所が多いのではないでしょうか。
 人身事故が起こると、さすがに詳細な分析をするものの、物損事故は件数のカウントや支払い総額の集計だけで終わってしまうケースが多く、事故報告書も保険会社の提出する簡単な書類だけしかなく、全体の原因分析や傾向分析ができていないケースが多いようです。

物損事故は人身事故の約6倍発生している

物損事故件数

 警察庁の統計ではわかりませんが、日本損害保険協会のデータでみると、1年間の物損事故件数が人身事故の約6倍といった数値が明らかになっています。

 損害保険会社に損害賠償請求された損失額の総額では、人身事故を超えています。事業所においても、人身事故の数倍の件数の物損事故が発生しているのではないでしょうか?

 

 このように多発する物損事故の原因分析は重要なテーマと考えられます。しかし、実態解明がないがしろにされているのであれば、大きな問題です。事故分析がされないと、有効な事故防止対策がとられないからです。

 どの企業でも、製品事故への対応や不良品の検品システム、顧客のクレーム処理などでは、不備があれば再発防止策を真剣に考えていると思います。それらに比べて物損事故への対応はこれでよいのかと考えさせられます。

日本損害保険協会のデータより
日本損害保険協会のデータより

追突事故などは原因の詳細分析が重要

 追突事故も、多くは物損ですみ、簡単な保険金の支払いで終わっているケースが多くみられます。しかし、追突事故の原因は千差万別で、ドライバー個人の不安全行動の原因がつかめないと再発防止策を立てるのは難しくなります。

 

 事故は違反の傾向とも密接な関係があります。たとえば、携帯電話の使用違反やスピード違反などは、追突事故との関連性を考えておかなければならないでしょう。

 

 また、追突を誘発するわき見や漫然運転には、ドライバーの様々なヒューマンエラーが関わっていますが、業務のなかで起こりがちなわき見要因もあります。

 たとえば、配達伝票や端末機などを助手席に無造作に置いているため「わき見要因になっている」ということがわかれば、運転中は助手席下のケースに収納するよう義務づけるという対策も考えられます。

違反傾向は運転記録証明書などで把握

 ドライバー個々の問題点としては、追突事故を起こした運転者の運転行動をドライブレコーダーやタコグラフなどで分析すると、急ぎ行動や無駄なアクセル・ブレーキ操作、車間距離を詰めた運転などの傾向値が明らかになることがあります。
 その場合は、エコドライブの実践などを通じた追突事故防止策を立てるといった方向性が考えられます。

 なお、違反傾向については、運転記録証明書などを活用しましょう。

 警察署や安全運転管理者団体の主催する無事故・無違反コンクールなどに参加すると、運転記録証明が取得 できます。無事故・無違反を達成したドライバーにはSDカードが交付されますので、社内の安全運転意識高揚にも役立ちます。

 

 携帯電話違反などは、自主申告がないと意外に気づきにくいのですが、全ドライバーの運転記録証明書をとると、事業所全体の違反のなかで携帯電話使用等の違反が占める割合が非常に高いということがよくあります。

構内事故・バック事故も原因分析が重要

 最近、事業所の管理者の方から「バック事故が多くて困る」という悩みをよく聞きますが、バック事故についても、具体的な原因がつかめていない例が多いようです。
 バック事故や構内事故を調べていくと、駐車場でバックしながら携帯電話を使用して次の訪問先と話をしている最中に、確認が散漫になり衝突といったケースがみられました。このような事故情報を一つひとつきちんとつかんで要因分析をしていかないと、的確な再発防止策はとれません。

 「バック時は後方確認を確実にしよう」といったスローガンだけでは、同種の事故が繰り返し発生します。

 

 また、バックモニターや後方警告センサー等を設置した車によるバック事故事例も多発しています。バックモニターにも死角があり、距離感が狂うという落とし穴があります。

 モニターを確認して危険に気づきブレーキを踏んだときには当たっているというケースもあり、バック時の速度にも問題がありそうです。事故がどのようなパターンで起こっているのか分析して対策を立てる必要があります。

物損事故報告システムの改善を

様式①──交通事故報告書の例
様式①──交通事故報告書の例

 物損事故原因をつかむためには、事故の報告システムを改善し、ある程度事故の発生要因がわかるような事故報告書を提出させることが大切です。


 日時と場所と保険金の支払金額しかわからないような書類ではなく、「なぜ当たったのか──急いでいた、いらいらしていた、他のことを考えていた」など、事故のヒューマンファクターを明確にするとともに、業務との関連性などにも注目しましょう。

 

 たとえば、左の様式①のような事故報告書がよく使用されています。これでは、記入する内容が多い割には、事故の表面的な事実関係しかわかりません。

 

 その裏面でもいいですから、下の様式②のような情報を必ずつかむようにして、物損事故であっても、事故報告内容を分析するなかで、再発防止対策を具体化させてください。

 

様式②──交通事故原因の分析
様式②──交通事故原因の分析

 

 様式①と②はワード文書で作成しましたので、必要な方は参考資料としてご活用ください。 (無料)

 

↓ダウンロードはこちら

交通事故報告書例

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