飲酒と運転に関する適切な教育の必要性
独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター院長 樋口 進
樋口氏はアルコールの分解についての解説、アルコールが運転に与える影響、常習飲酒運転者に対する対策について、新しい研究結果などを交えながら発表を行いました。
2008年に男女計4,022人に飲酒運転の経験についての調査を行いました。その結果、飲酒運転を経験したことがある人の7割~8割が「飲酒量が少ないので大丈夫だと思った」「飲酒してから時間がたっているので大丈夫だと思った」と回答しました。
またある調査では、多くの人が飲んだお酒の量にかかわらず、8時間ほど寝ればアルコールは抜けると考えています。
このことは、飲酒運転の経験者の多くが正しいアルコールの分解知識を持っていないことを示しており、飲酒運転の防止のためにはアルコールの分解についての正しい知識を持つことが求められています。
摂取したアルコールの量をわかりやすく表すために、ドリンクという単位があります。純アルコール換算10gのお酒を1ドリンクとし、ビール500mlや、日本酒1合は2ドリンクとなります。
ここで大切な事は1ドリンクのアルコールを分解するのにどれくらいの時間がかかるかということです。最近の学会では飲み始めてから1ドリンクを分解するのにかかる時間は2時間30分とされており、2ドリンクを分解するのには5時間がかかります。
またアルコールの分解には個人差があります。一般的に男性の方が女性より分解速度が早く、顔が赤くならない人のほうが赤くなる人より分解速度は早くなります。また睡眠時は起きている時間よりも分解速度は遅くなります。
こういったアルコールの分解についての正しい知識をもつことが飲酒運転を防ぐことになるのです。
アルコールを摂取すると極めて低いアルコール血中濃度においても、運転への影響が表れます。
具体的には、集中力が下がる、多方面への注意が向かなくなる、反応時間が遅れるなどといった運転に必要な機能が低下します。
このことは、お酒に強い、弱いといったことは関係なく、血中アルコール濃度が同じであれば同じように悪影響があります。また、アルコールを飲む速度が早い場合はゆっくり飲んだ場合よりも運転への影響がより強くなります。
また、飲酒運転による事故被害者の重症度をみると、非飲酒運転による事故に比べて重症化しやすくなります。
また調査では、飲酒運転をした理由として4割の人が「悪いと思ったが、飲みたい気持ちに負けた」、2割の人が「前日の飲酒量を減らせなかった」と答え明らかにアルコール依存症の兆候がみられます。
飲酒運転を防ぐためには、アルコール依存症を減らしていくことが大切なのです。
依存症と診断された人は専門医の指導による断酒治療をするしかありません。その予備軍である多量飲酒者のための対策として、現在「簡易介入」というプログラムが展開されています。これは、短時間のカウンセリングや、酒量の目標設定、飲酒に関する日記を記入することで酒量を減らそうという取り組みです。
内閣府で行った調査において、簡易介入の有用性が証明され、現在警察庁では飲酒運転違反者に対する取消処分者講習に簡易介入を導入する準備を進めています。
また法務省においても、交通刑務所で飲酒運転受刑者にたいして簡易介入を導入するモデル事業を開始しています。