悲惨な交通事故のニュースが後を絶ちませんが、事故の原因をみると事業所の管理責任とともに、個々のドライバーの抱えている問題点が気になります。
疾病や服薬など心身のコントロールの問題、そしてヒューマンエラーを招きやすい運転態度の問題などがよくみられます。
全体の安全運転管理も重要ですが、危機管理のポイントは個別指導であることがわかります。
安全運転指導について、画一的な教育を行なっているだけでは、個別のドライバーの問題点は見えてきません。
個々の実態にあった指導をすることが求められています。
ドライバー個々が、過去にどのような問題をかかえ、どのような指導を受けてきたかを知るとともに、今後どのような指導をすればいいのかも考えていきましょう。
そのためには、ドライバーの個人記録をきめ細かく調査して管理・指導する体制を考えていく必要があります。
ある自動車部品メーカーの事業所で、若い従業員がマイカー通勤時に見通しの悪い交差点で出会い頭事故を起こし重篤な人身傷害となりました。
この従業員を調べてみると、日頃から作業ミスが多いという評価であり、現場の職長も気になってときどき指導していたということです。
さらに安全運転管理者が総務課長と話し合ってみると、「そういえば、採用時のクレペリン検査でも作業集中度や性格特性に問題があったので、配属先の管理者に申し送った」といった事実がわかりました。
すべては、事故が起こってから判明したことです。運転適性検査だけでなく一般の検査情報などを含めて、情報を共有化することの大切さと、ドライバーとしての個人情報を一元化する必要性を痛感したそうです。
ドライバーの過去の違反実態や物損事故などの分析結果、定期健康診断の結果なども一覧化して見られるようにしておき、そのドライバーにどのような指導が必要かを判断する材料にしましょう。
また、集合教育や保険会社などが行う適性診断サービスなどについても、ドライバーが実際に出席しているのかどうかチェックしておきましょう。
疾病などの影響や視力などに自信がなく、適性診断の日に限って出張などの理由をつくって受診を避けている従業員がいる可能性もあります。
集合教育で配布するパンフレットは、できれば感想欄や安全目標の記入欄のあるものにして、コピーをとり一人ずつ受講の記録を保存しましょう。
ドライバーの個人情報は本人の不利になったり外部に漏洩しないようにきちんと管理する必要がありますが、違反事故や診断結果などを照らし合わせると、個別指導の必要なドライバーが見えてくるはずです。
あるトラック運送会社で、道路左側の電柱等に車体をこする物損事故を繰り返していたドライバーに個別面談指導をした結果、管理者が「どうも左側がよく見えていないのではないか」ということに気づいたそうです。そこで、精密検査を指示した結果、軽い脳内出血による視野狭窄が判明した例があります。
大きな人身事故が発生する前に、個別の問題をつかむことが重要です。
また、自動車運送事業を営む事業者の場合は、ドライバー個々に対する「指導・監督の記録」をとることは、法律に定められた義務でもあります。
「事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(国土交通省の告示)により、安全を確保するため運転者に対して指導と監督を行うとともに、その内容を記録し、営業所に3年間保存することが定められているからです。
一人ひとりの記録をとるのは大変ですが、「安全品質」という意味で重要な作業です。指導や監督の記録がしっかりしている運送事業者は信用が高まるというメリットがあります。荷主や旅行会社、元請け企業に対しても、「このドライバーにはこれだけの教育をしています」とアピールすることが、新しい仕事を得る上で大きな武器となるからです。
なお、自動車運送事業者に対しては、平成24年4月29日のツアーバス事故を踏まえて、各地方運輸局がバス事業者はもちろんトラック運送事業者、タクシー事業者などに対しても監査の強化を図る方針を明らかにしています。
監査などの過程では、点呼の実施違反や点呼記録違反、健康状態の把握違反とともに指導・監督違反なども厳しく問われます。
トラック事業者に対しては2012年秋、タクシー事業者に対してはその後監査が実施される予定ですが、運輸局単独の監査や呼出指導以外に、労働基準監督機関と連携をとった合同監査・監督も実施されます。
参考までに近畿運輸局が行った監査の実態を下に挙げますが、今後は更に厳しい監査と指導・処分が行われるとみられています。
(※トラックドライバーの「指導及び監督」については、12項目の内容が告示に定められていますので、項目に沿った教育実績を記録する必要があります)