ある運送会社の研修に参加していたところ、指導者から「自分に罪はないと思っても、罰を受けるのが交通事故」という言葉があり、なるほどと感じました。
相手が死角から突然に飛び出してくるなど、ドライバーが自分は悪くないと思っても、死亡・重傷事故などに結びつくと、ドライバーが逮捕されることがあります。
また、損害賠償でも過失割合が発生して、過失相殺率は5割を超えてしまうことがよくあります(※)。
たとえ「もらい事故」と感じるケースでも交通事故は絶対に防ぐという強い意思が必要です。車側には大きな過失割合が発生することを指導しておきましょう。
※過失相殺率については、すべて「別冊判例タイムス16・民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準/東京地裁民事交通訴訟研究会編」から引用しました。
まず、事故の相手が歩行者や自転車の場合は、車側の過失がゼロで終わるケースはほとんどないことを教えましょう。
車が信号のある横断歩道を青信号で進入し、歩行者信号が赤の状態で横断してきた歩行者と衝突した場合、ドライバー側に「わき見」などがなく自動車運転過失致死傷罪には問われない場合でも、民事の過失責任は3割が基本となります。
もし歩行者が高齢者であったり幼児の場合は、さらに運転者の過失が付加され5割とされることも少なくありません。
また、運転者が最高速度より速いスピードで走行していたりすると、過失割合が増えます。たとえ青信号で走行していてもこれですから、黄信号に変わったときなどは、さらに過失責任は大きくなります。
車対車の交通事故でも、「もらい事故」のつもりでいると「加害事故」とされるケースがあります。
進路変更をした後に後続車から追突された場合、「当てられた」と感じるドライバーが多いのですが、実際には、被害者ではなく加害者とされるケースが多く、刑事罰も適用される恐れがありますので注意が必要です。
たとえば、高速道路で進路変更をした車が追突された場合、基本過失割合は進路変更した車の側が8割となります。一般道路でも、進路変更側が基本7割です。
普通の追突事故の場合、理由のない急ブレーキを踏んだケース以外は追突された側が被害者となりますが、合図を出して適法に進路変更をした場合でも、進路変更自体が追突事故の大きな要因と考えられるので責任が重くなるのです。
右折レーンの手前にゼブラゾーンがあるため、わざわざそこを避けて直進し進路変更して右折レーンに入る場合などは、追突した側の責任が10%~20%加算されますが、それでもよくて5割対5割というところです。
我が国の道路交通法では、優先権というのは絶対ではないということを徹底しておきましょう。とくに交差点では、この法則が強く適用されます。
道路交通法第36条4項の「交差点の安全進行義務」は大きな意味をもっていて、「…交差点に入る車は交差道路を通行する車等……に注意し、できるだけ安全な速度と方法で進行しなければならない」と記載されています。
この条文には「信号の有無」などの但し書きはないので、たとえ青信号の側にいても交差点で交通事故を起こしたら安全進行とはいえない、何らかの過失があり相応の責任を負うという考え方がなり立ちます。
信号がなく相手の道路に一時停止規制がかかっているような交差点はなおさらで、自車側道路に優先権があっても責任がゼロになることは、まずありません。
このように考えると、交通事故は相手に起こされたとしても責任が発生するおそろしいものです。
交通事故は、平気で交通ルールを違反するドライバーや意図的にリスクテイキングをする危険なドライバーが起こすもので、自分は関係ないと考えている人が多いと思います。
しかしながら、実際には安全に行動しているつもりの人の過失が重なって、運悪く発生するケースがほとんどです。
見通しの悪い交差点で、自転車の急な飛び出しにあい、びっくりしてブレーキを踏んだとき、ドライバーは「何と危険な自転車なんだ!まったく!」と腹を立てて終わりがちです。
しかし、そんなヒヤリ・ハットを体験したときこそ、こう考えてみるべきでしょう。
「もし避けられずに自転車と当たっていたら、自分の過失はどれくらいだろう?」
「下手をしたら自動車運転過失致死傷罪で罰金・実刑かもしれない!」
・基本過失割合は自転車に一時停止規制があっても → 車の責任が6割
・一時停止規制のない交差点なら → 車の責任が7割
・自動車運転過失致死傷罪 → 7年以下の懲役又は100万円以下の罰金
このように考えると、相手が悪いと感じても、何とか事故から遠ざかろうという意識が高まると思います。
(2012年9月28日更新 シンク出版 編集部)
「当てられた!」自分が交通事故の被害者だと思っていたら、過失相殺で思わぬ損害賠償を請求されることが……。
「もらい事故でもこれだけの過失がある」は、たとえ「もらい事故」と思われるような事故でも、実際には大きな過失割合が発生することを学ぶとともに、高額の損害賠償が生じた判例を紹介しています。
「もらい事故だから仕方がない!」という意識を改め、事故防止の重要性を学ぶ教材です。