高崎経済大学名誉教授 岸田 孝弥
第四講座は「今日の自転車問題について~事故防止の視点から」として、高崎経済大学の岸田孝弥名誉教授が講義を行いました。
自転車は手軽で便利、エコであるといったような理由で利用する人が増えてきています。しかし、その一方で、自転車が加害者になるような事故も多く発生し問題になっています。
まず、自転車事故の状況ですが、自転車乗車中の事故による負傷者数は平成16年をピークに下がってはいますが、その減少率は自動車乗車中などと比較すると低くなっています。
また、自転車乗用中の死者数の内訳を見ると、高齢者が59.7%と全体の約6割を占めます。ところが、負傷者の内訳をみると小学生から大学生の年代が約4割となり、高齢者は2割以下でしかありません。
つまり、高齢者は自転車事故に巻き込まれると死亡する確率が高くなっていることがわかります。さらに、死者の損傷部位を見てみると頭部が63.15%と高くなっています。このことから、高齢者にもヘルメットの着用義務化が望まれます。
また、自転車乗車中に死亡した高齢者には交通違反が多く見られます。実に79.6%の高齢者が何らかの違反違反をしていますが、とくに信号無視、一時不停止の割合が高くなっています。
自転車対車両と自転車対歩行者の事故原因を見てみると、「交通閑散時に気を許していた」という点は共通しますが、対歩行者事故においては「考え事をしていた」という発見の遅れの割合が高くなります。
さらに、違反の種類を見てみると、対車両事故では「道路の左端に沿って通行しなかった」、「信号無視をした」、「一時停止しなかった」という割合が高いのですが、対歩行者事故では「傘さし運転をしていた」、「無灯火だった」、「スピードを出しすぎていた」という割合が高くなり、対車両事故との違いが見られます。
交通安全に対する意識と、リスクの関係を調べるために、4校の中学生544名にアンケート調査を行いました。
その結果、交通安全教室にプラスのイメージを抱いている生徒は、リスクが小さく、逆に交通安全教育に対してマイナスのイメージを持っている生徒はリスクが大きいことがわかりました。
さらに、一般道路でルールを破ると渡される警告カードをもらったことのない生徒はリスクが小さいが、警告カードをもらっている生徒はリスクをとる傾向が高い結果になりました。
実際に事故を起こした学生の事故報告のデータからは時間帯によって変わる自転車事故の原因が見えてきます。
まず、深夜ですが帰宅中に「無灯火」、「スピードの出し過ぎ」、「飲酒運転」というケースが見られます。また夜間にはライトを点灯させようとして、足でスイッチを蹴ってつけようとしたところ転倒し、怪我をするというケースが多いことがわかりました。
夕方の時間帯では、アルバイトや部活に向かう途中に傘さし運転による事故がみられ、出会い頭での事故や自転車との正面衝突などが発生しています。
自転車事故をはじめとした交通事故を防ぐには、地域社会が一体となって取り組む必要があります。
たとえば、警察署と連携して危険地点マップの作成をし、それをもとに地域の住民と情報の交換・共有をしたり、重大事故が発生したら速報チラシを作成し、スーパーに掲示をしたりといったことが大切です。
また、長いスパンでみると、交通事故は同じ場所で発生していることがわかることもあります。ある幹線道路との合流点では、5年で20数件の人身事故が発生していることがわかりました。こういったことは、1年単位で見ていてはなかなかわかりませんから、5年10年で見ていくことが必要です。
そのためには、交通管理者、道路管理者、地域住民の参加型アプローチが必要となるのです。