いたずらに前車との車間距離を詰めて走行する「あおり運転」は、道路交通法で禁止されていますが、これは大きな事故に結びつく危険があるからです。
先日も、危険な「あおり運転」の結果として事故を誘発した運転者に、厳しい実刑判決が下されています。
●前車に急接近する危険行為による事故で懲役6年の判決
(宇都宮地裁平成25年8月22日判決)
栃木県矢板市で平成24年9月、危険なあおり運転がきっかけで前の車が他車と衝突し、衝突された車の女性が重体となった事故で、危険運転傷害と道路交通法違反(ひき逃げ)の罪に問われた元少年の男性(20=事件当時19歳)に対して、宇都宮地裁は懲役6年(求刑懲役8年)の判決を言い渡しました。
同地裁の裁判長は判決理由で「女性は事故後も意識障害が続き、意思疎通ができない状態が続いている。生じた結果は重大」と諭しています(平成25年8月22日)。
【事故の概要】
発生日時 平成24年9月11日の
午後10時ごろ
発生場所 栃木県矢板市の国道
事故の態様
男性は元交際相手だった少女(当時18歳)を「帰宅途中のコンビニエンスストアで見かけ、少し驚かせてやろうと思って」追いかけていました。
少女の乗用車に急接近するなどのあおり行為を繰り返したため、少女は恐怖を感じて何とか逃げようと進路の安全確認が不十分なまま走行し、左側から出てきた大学生の女性(当時19歳)の乗用車と衝突しました。一方、あおり行為をした男性はそのまま逃走しました。
衝突した少女は、あおっていたのが元交際相手の車であることは全く気づかずに、「追われている車から逃げ出したい」という一念で速度を上げ、後方に気を取られて前方不注視状態に陥ったものです。被害者の女性は頭部強打で現在も意識不明の重体です。
警察は、現場で採取した部品から、少女と以前交際していた被告の男性の車と特定し、男性の行為が事故を誘発したとして、危険運転傷害やひき逃げ容疑で逮捕しました。
【この事例が示唆すること】
●あおり行為に「危険運転致死傷罪」の適用
危険運転には「通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」が含まれています。
つまり、動機としては軽いいたずらな気持ちで行ったあおり運転でも、重大事故に結びついた場合は「危険運転致死傷罪」が適用される可能性があることを肝に銘じておきましょう。
●車間距離を詰めて走行する運転をやめよう
事例のような悪質な「あおり運転」を意図していない場合であっても、車間距離を詰めて走行する車のために、前の車の運転者が怖い思いをするということはよくあることです。
そして、前車の運転者は恐怖感を感じているにもかかわらず、後続車の運転者は普段から車間距離を詰めて走ることに慣れているために、相手が怖がっていることに気づいていない場合もあります。
しかし、前車の運転者が後続車の接近に意識を奪われると、速度を上げすぎたり、安全確認などに影響を与え、危険なことは明らかです。
●前車が路肩などに退避して道を譲ってくれたり、追越車線上で前車が急に
走行車線に戻るといったことをよく経験する運転者は、自分のとる車間距
離が短すぎるのではないかと反省しましょう。
●車間距離不保持の交通違反で摘発されるだけでなく、前車の事故に結びつ
き、「あおり運転」の責任を追及される可能性もあることに気づく必要が
あります。
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(2013年08月30日 更新)