最近、交通事故の原因として運転中の病気の発作や急激な体調変化によるものが増加していると言われています。意識喪失などを発症したため大事故に結びついた事例もあります。
このコーナーでは7回に分けて、交通事故に結びつきやすい健康リスクについて紹介します。今回は、多くの方が対象となる高血圧の危険を考えてみました。
●44歳のバス運転者が突然意識を失って、死亡
(東名阪自動車道 貸切バス事故)
平成25年7月1日午後5時50分ごろ、三重県亀山市の東名阪自動車道で、貸切バス(乗客31名)を運転中バスの運転者(44歳)が突然に意識を失って、蛇行走行しながらガードレール、側壁に衝突する事故が発生しました。
このとき乗客3名がハンドル、ブレーキ操作等を行って停止させため、大惨事となることは未然に防がれましたが、運転者は死亡しました。
■バス運転者の死因:「急性大動脈解離」
急性大動脈解離という疾患は主に高血圧症の人に突如発生する非常に危険な病気です。循環器疾患による突然死としては、心筋梗塞に次いで2番目に多いとされています。
発作が起こると、突然の激しい胸や背中の痛みがありますが、まれに痛みの自覚症状が軽いこともあり、治療が遅れると死亡率が高いと言われています。
※「解離性大動脈瘤」という病名が使われることもあります。最近では、2013年12月30日に急逝したミュージシャン・大滝詠一氏の死因でもあります。
●高血圧の人は運転のストレスを意識しよう
最初から少し極端な事故例を紹介しました。
職業ドライバーであり、過酷な過労運転が原因と考える方もいるでしょう。しかし、バスの運行自体は関越自動車道事故のような無理な行程ではありませんでした。
運転者は、点呼の際に異常はなく、定期健康診断も受診しています。血圧は高めでしたが、その他特段の異常は見られなかったそうです(国土交通省のメールマガジンより)。
血圧の高い方は、運転が大きなストレスを生じさせる業務であると認識し、運転中の血圧の急上昇が、さまざまな発作の引き金になる危険を意識しましょう。
●一般的な高血圧の運転リスク
リスク | |
運転行動自体 |
運転をすること自体が心身への負荷となり、正常な人でも運転を始める ことで、30~40mmHgも血圧が上昇するといわれています。 |
ヒヤリ体験 |
自転車やバイクの飛出しなどにあってヒヤリ・ハットすると、さらに血 圧が上昇します。 |
長時間運転 |
身体の姿勢を変えるといった簡単なストレス解消策ができないまま、長 時間の運転による疲労蓄積から血圧上昇を招きやすくなります。 |
寒さの危険 |
寒い時期は血管が収縮し、血圧は上がります。冬は夏よりも血圧が高く なるので、寒冷地への運転では注意が必要です。 |
●特に職業ドライバーで深夜に運転する人はリスクが高い
リスク | |
深夜の危険 |
夜間に血圧が上がるタイプの患者で、そのことに気づいていない場合、 深夜に運転ストレスがかかるのは危険です。 |
早朝の危険 |
早朝に血圧が上がるタイプもあり、早朝、高速道路出口が混雑し疲労感 が強い時に走行しているトラック・バス運転者などは危険が高まります。 |
服薬が困難 |
長距離の夜間運転では、食事が不規則となり、望まれるタイミングで、 高血圧の薬が服用できない危険性があります。 |
処方の問題 |
医者が深夜運転の事実を知らずに、夜間は就寝前の薬で血圧が下がって いると考え、深夜業務中に飲む薬を処方していない恐れもあります。 |
運転業務につく機会の多い方やとくに職業ドライバーの方は、以下のチェックポイントに当てはまるかことがないか、リスクチェックをしておきましょう。
□ 左胸、左肩から背中にかけて、痛みや圧迫感、
締め付け感がないか
□ 息切れ、呼吸がしにくくないか
□ 最近、脈がみだれる、動悸がすることはないか
□ めまいはないか
□ 頭が重い、または強い頭痛がないか
□ 片方の手足、顔半分の麻痺、しびれを感じないか
□ 言語の障害が生じていないか
□ 片方の目が見えにくいことはないか
□ 健康診断で血圧が高いといわれたことはないか
高血圧の恐れがある方や治療を受けている方は、以下の点に気をつけてください。
深夜運転を避ける
止むを得ない場合、医師に薬を相談する
投薬を受けた人は
計画的に休憩し、きちんと薬を飲む
頭痛などがしたら
無理に運転を続けない。休息をとり受診
ヒヤリ体験をしたら
休憩して、心身の状態を落ちつける
外食が多い場合は
野菜や果物を多く摂るようにする
急激な温度変化を防ぐ
冬は車外に出るとき防寒に努める
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