最近、交通事故の原因として運転中の発作や急激な体調変化によるものが増加しています。
このコーナーでは、交通事故に結びつきやすい健康リスクについて紹介していますが、今回は、服用している薬の副作用による危険を紹介します。
●禁煙治療補助薬で意識が朦朧として自損事故
2011年、60歳代の男性が禁煙補助薬「チャンピックス」を朝食後に服用して車を運転したところ、全身の震え、意識消失を起こし、気がついた時には道路の側溝に車が突っ込んだ状態の自損事故を起こしました。
この男性が再度、この薬1mgを夕食後に服用して約20分後、運転中に再びよだれが流れ、全身の震え、意識消失を起こし、電柱に衝突しそうになりました。
その後、この男性を含め6人がこの薬を服用後に自損事故を起こしたと報告されています。
■添付文書に「運転禁止」の文章を追加
そこで、厚生労働省は、禁煙補助薬「チャンピックス」を服用後に意識障害に陥る危険があるとして、2011年7月に製造元のファイザーに添付文書※の改訂を指示し「服用後は自動車の運転など危険を伴う機械の操作はさせないでください」という文章を追加しました。
※添付文書=医療関係者向けの薬品情報
健康問題を抱えて薬を服用している方は、運転をする場合、次の2点に気をつけましょう。
1 「薬を服用したこと」による副作用の危険
2 「薬を正しく服用しなかった」ために起こる危険
まず、薬を服用したことによる副作用として、急に眠くなったり、意識が朦朧としたりする重い副作用がないかという危険を考えてください。
前述の禁煙補助薬は事故が短い間に連続して、ニュースにもなり注目を集めましたが、この薬に他にも、服用後の運転を禁止すると添付文書に記載されている薬があります。
添付文書への表現は次の3つのレベルに分かれていますので、薬の説明書をよく読むとともに、薬剤師などにも説明を受けるときの参考にしてください。
① 運転禁止
「自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させない」(高所作業という記載の追加がある場合も)
② 条件付き禁止
「注意力・集中力・反射運動等の低下がある時には、自動車運転等を禁止する」
③ 注意して自動車運転等を行う
「自動車の運転等、危険を伴う機械の操作に従事する際には注意するよう説明」
この「運転の禁止」は、四輪自動車や二輪自動車・原付き自転車だけでなく、クレーン、フォークリフトなどにも拡大して考える必要があります。
添付文書に自動車運転禁止あるいは注意などの記載がある薬剤のうちで、私達が服用する機会が多いと思われる薬剤としては次のようなものがあります。
① 抗アレルギー薬
花粉症薬、アレルギー性結膜炎の薬、抗ヒスタミン薬を含む感冒薬
② 神経科、心療内科などで処方される薬
睡眠薬、精神安定薬、抗不安薬、抗うつ剤、抗けいれん薬、ドーパミン受容体作動薬
③ その他
頭痛薬、抗不整脈薬、咳止め、狭心症への硝酸薬、降圧薬、利尿薬、経口糖尿病薬、吐気止め、排尿改善薬
とくに利用機会が多いのは、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン剤)です。抗ヒスタミン剤は鼻水や涙、くしゃみなどの強い症状を抑えるので、アレルギー症状の激しい人にとっては運転に必要な場合もあります。
しかし、こうした薬には眠気以外に、「インペアード・パフォーマンス」という、自分では気がつかない集中力や判断力・作業力の低下が生じることが問題になっています。パフォーマンスの低下が「見落とし」など思わぬ事故に結びつかないとも限りませんので、注意が必要です。
薬を購入するときや、病院などで薬の処方を受けるときには、医師・薬剤師に、自分が服用後に運転をする可能性があることを申告して、眠くなる危険等がないかを確認しましょう。
平成25年5月29日、「医薬品服用中の自動車運転等の禁止等に関する患者への説明について」徹底するようにという厚生労働省の指導文書が出ていますので、こうした問題を意識している医療関係者も増えていると思われます。
睡眠薬などの場合、前夜に飲んだ場合でも、翌日の運転に影響を与えるという種類の薬品があります。服用後何時間以上あけるかなど具体的に質問してください。
また、たとえば頭痛解熱薬の場合、バファリンやアスピリンなど「アセチルサリチル酸」だけが成分の薬は飲んで眠気が生じる恐れはありませんが、他の頭痛薬で「アリルイソプロピルアセチル尿素」成分が含まれている製品は眠気が生じる危険があります。
運転前に薬を飲む方は、以下のチェックポイントに当てはまることがないか、リスクのチェックをしておきましょう。
とくに、複数の薬を処方されている方は、副作用が増幅されて、強い症状がでる危険があります。
□ 薬を飲んだあと、目がかすむことはないか
□ 薬を飲んで、階段でよろめいたりしたことはないか
□ 服薬後、棚の上の物を取ろうとして落としたことはないか
□ 「この薬は眠くなる」と同僚から聞いたことはないか
□ 薬を飲んで、ハンドル操作が遅くなったことがないか
□ 複数の薬を処方されていることを医師に確認したか
説明書きを読む
運転禁止等の注意がないか確認する
薬剤師に確認する
いつ運転するかを伝えて、確認する
副作用を感じたら
記録をとり、医師・薬剤師に相談する
※次回は「薬を正しく服用しなかった」ことによる危険について考えます。
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