同法律は新たに罪を創設し、これまでの法律よりも厳罰化するものであり、また必ずしも全ての要件が明確であるものでもなく、問題点も指摘されてはいますが、平成26年5月26日までに施行されることになっています。
会社の従業員がこれらの法律の罪を犯してしまえば、重い罰を受けることになり、雇用の継続を見直さざるをえないこともあります。
同法律によって、会社が直接刑罰を受けたりすることはありません。ただし、私見ですが同法律の新たな罪の創設や要件の緩和により、使用者責任や運行供用者責任について、会社がなすべき義務の内容等に影響があるとは考えられます。
業務で自動車の運転を行うにあたり、厳罰に処される行為についての注意や対策を会社がしていないような場合、当然民事上でも、今まで以上に会社の責任は重いと判断されることが多くなると予想されます。
また、会社が免責される場合として、使用者責任は、被用者の選任・事業の監督について過失がないこと、運行供用者責任は、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったことが要件の一つとして定められており、必要な注意をすることが求められます。
特に自動車の運転を業務とする会社は、従業員に対して法改正の内容を周知させた上で、それに対する教育を行う必要があります。
その際には、危険運転等を行わないようにするための指導はもちろん、事故を起こした場合でも、証拠を隠滅したり逃走したりしないようにすべきことまで周知させておくべきですし、事故後の対応(被害者の救助、警察・救急への連絡、会社への連絡や担当部署)について明確に決め、例えばマニュアルを作成するなどして、周知徹底しておくべきです。
同法律では、「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの」の影響による場合も含んでいます。まだ具体的に政令は定まっていませんが、病気自体にも当然軽重はあり、また症状を適正に把握し、服薬や体調管理等を守っていれば、自動車の運転には支障がないことが通常であり、同法律が原因で、特定の病気に対する偏見や差別が助長されることはあってはいけません。
このような病気については、プライバシーに関わることであり、会社としても業務に関連性のないことまで根掘り葉掘り聴取すべきではありませんし、病気があるというだけで差別的な扱いをすることは許されず、その対応は慎重に行う必要があります。
ただ、会社の立場からは、運転者の体調や持病等の把握はしておかなければいけません。把握した上で、業務として運転を行う場合、飲酒等の影響がないかを確認するのと同様に、点呼の際等に、持病に対する措置が行われているかどうかを確認しておくべきでしょう。
このように会社は、従業員のプライバシー等を十分に尊重することを前提とした上で、少なくとも運転行為に従事する従業員については、会社の責任として同法律に該当する疾病の有無、従業員の状態に注意しておく必要があります。
(執筆 弁護士 清水伸賢)