私は小さな物流会社を経営していますが、最近、ドライバーが退職したあとに、在職中の残業代を求める訴訟が増えていると耳にしました。弊社では、会社の規定にしたがって、残業代を含めて「運転手当」として支払いしていますが、長距離ドライバーが多い関係上、残業代については不明瞭なところもあります。
正直なところ、残業代をきちんと計算すると、会社が立ち行かないのですが、訴訟をおこされた場合のダメージは計り知れません。会社としては、どのような対応をしておくべきでしょうか?
労働時間や賃金体系の規定が実態とずれている会社の場合、すなわち、本来支払わなければならない残業代金が未払いの場合に、従業員から残業代金の請求を受けることが近年少なくないようです。
特に運送業は、拘束時間が長いことは当然なのだから「残業代金を定めた法律の方がおかしい」とすら言われることがあり、昔からの労働体制を続け、賃金体系を見直さないままであったり、設問のように、きっちり計算すると利益にならないという理由で、残業代金の問題を放置したりする会社も少なくありません。
また、残業代金請求の問題は、会社が具体的に請求等を受けていない間はつい対策を怠りがちです。しかし一度訴えられると、裁判所は法律の規定に従って判断するため、多額の残業代金請求が認められることが多く、会社の対応が悪質な場合には、さらに支払うべき金額が増えることもあり、場合によっては会社経営自体が継続できなくなることもあります。
残業代金請求の時効は2年間であるとはいえ、設問のように、「残業代金をきちんと計算すると立ち行かなくなる」ような会社は、結局残業代金請求をされた場合には破綻に至る可能性を常に抱えていると考える必要があります。
ドライバーの仕事の多くは、事業場外で行うものであり、会社にとって労働時間の把握が困難な部分があります。そのため、いわゆる「みなし労働時間制」(労働基準法第38条の2)の適用を考える会社もあるかもしれません。
しかし、みなし労働時間制は、使用者の具体的な指揮監督が及び、また労働時間の算定が可能な場合には適用されません。
具体的な業務内容によって変わりますが、運送業は多くの場合、ドライバーの業務は、目的地、積荷の種類、積込み場所、配送ルート等は決められているものであり、日報等から運行時間や実際の労働時間を算定することもできます。さらに携帯電話、車内無線、タコグラフ等の設備によって常に運行状況を把握することも可能ですので、使用者の具体的な指揮監督が及び、労働時間の算定も可能であるといえ、みなし労働時間制の対象とならないことが多いといえるでしょう。
逆に言えば、ドライバーの仕事といえど、会社がその詳細についてきちんと把握し、指示を与えるべきともいえるのです。