交通事故に結びつく健康リスクとして、最近話題に登ることが多いのは、SAS=睡眠時無呼吸症候群による居眠り運転です。
SASの名が一躍注目されたのは、平成15年2月にJR山陽新幹線運転者の居眠り運転が発覚してからですが、自動車運転でもSASが一因とされる交通事故が多発しています。
●渋滞車列にキャリアカーが追突
SASに罹患したドライバーが渋滞道路で衝突し、死亡事故を起こした事例です。
前の車を押しつぶし、税関職員6人が死傷
平成24年7月11日午後、東京・江東区の首都高速道路で税関職員6人が乗ったワンボックス車に中古車販売会社のトラック(キャリアカー)が追突し、ワンボックス車は追突したトラックと前にいた大型トレーラとの間に挟まれて大破、4人が死亡し2人重傷という大事故となりました。
発生時刻は午後2時25分ごろで、渋滞のため減速走行していたところへ「トラック(70歳男性運転)が追突したのです。最初は、「前をよく見ていなかった」というわき見運転の供述でした。
気がついたら衝突した後だった!
しかし、逮捕後の運転者の供述で、「気がついたときには衝突していた」ということがわかり、警察は過労運転などの疑いで勤務していた事業所を捜索しました。
事業所では無理な運行指示の証拠はなく、地検の指示で医師が診断したところ、運転者に睡眠時無呼吸症候群の症状が確認されました。SASのため、突然の居眠り運転に陥って事故に至ったことが判明しています。
SAS患者が突然居眠り運転に陥ったケースでは、「予測できない意識喪失」として無罪判決となった場合もあれば、SASが一因とは認めつつも、「眠気の予兆があったので防ぐことはできた」として過失責任を認めて有罪判決を下した例もあります。
この事故では、運転者がSAS診断後に処分保留で釈放されましたが、その後、東京地検は6人死傷の重大性などを考慮し、過失責任を問えるとして平成25年3月29日に在宅起訴しました。
弁護側は無罪を主張していますが、検察側は、事故を起こした運転者が運転中、疲労や倦怠(けんたい)感から眠気を感じて、ガムをかんでいたと指摘し、
「遅くとも事故3分前には運転を中止すべき注意義務があったのに、やめなかった」
と過失責任を主張、現在公判が続いています。
◆続報──禁錮5年6月の実刑判決◆
この事故の刑事訴訟で、東京地裁(大善文男裁判長)は2014年7月4日、自動車運転過失致死傷罪に問われた被告に対して、専門医の鑑定を踏まえ「重症のSASだったが、事故を予測できた。現場の約2キロ手前では眠気を感じていたので、事故は回避できたはず」と結論づけ、禁錮5年6月(求刑・禁錮7年)の判決を言い渡しました。
(2014年7月6日更新)
SAS(sleep apnea syndrome; SAS)とは、睡眠時に軌道が閉ざされることにより呼吸停止または低呼吸になる病気で、夜間の眠りが非常に浅くなるため、昼間に急に睡魔に襲われたり、集中力が急激に低下するような症状を起こします。また、肥満者に発症が多い点が特徴です。
SAS患者と正常な人の居眠り運転事故率を比較した研究データでは、軽・中等症患者で2倍、最重症患者では約3倍も居眠り事故を起こす確率が高くなっています(下図)。
SASは、自覚しづらい病気ですので、エプワース自己診断チェック表などを使って一度チェックしてみましょう。もし、SASの疑いがある場合には、耳鼻科などの専門医の診察を受けることが大切です。
現在は、安全性の高い気道閉塞を防ぐ治療法があり、CPAP(シーパップ)という機器療法でも毎月5,000円程度の費用(保険医療)で受けられます。
さらに、減量指導などにより肥満が解消されると症状が改善することもあります。
下のエプワース眠気尺度は、睡眠障害の判断に用いられる自己チェックの一つで、昼間の「眠気度合い」をはかる検査です。この尺度検査で11点以上の点がついた人は、かなりの確率でSASなど睡眠障害の危険があります。
SASが肥満者に多いのは、首周りに脂肪がついていて気道が塞がれやすいからです。さらに肥満者は、浅い睡眠と低酸素ストレスが続くことによって、高血圧、高脂血症等の合併症(メタボリック症候群)を発症する危険性が大きくなります。
このため、SASの人はメタボリック症候群にかかりやすく、逆にメタボ気味の人がSASになりやすいという悪循環に陥りがちです。
気になる人は、下のチェックポイントも参考にしてください。
□ へそ周りが85cm以上ある(女性は90cm以上)
□ 最近、首周りに肉がついて、寝苦しいことが多い
□ 高血圧・高脂血症と診断され、減量を指導されている
□ 血糖値が高いので、医師に注意しなさいと言われている
□ 最近、いびきがひどくなったと家族に言われている
□ 徹夜や長時間労働で、つい「どか食い」してしまう
眠気を感じたら
迷わず運転をやめて休憩する
倦怠感がある日には
30分以内の仮眠をして、様子をみる
メタボ気味の人は
SASに罹っていないか診察を受ける
SASと診断されたら
管理者に報告し、気道治療を受ける
(シンク出版(株) 平成26年2月17日更新)
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この小冊子では、ドライバーが健康管理を徹底していなかったために発生したと思われる、重大事故等の6つの事例をマンガで紹介しています。
各事例の右ページでは、垰田和史滋賀医科大学准教授(医学博士)の監修のもと、日々気をつけなければならない健康管理のポイントをわかりやすく解説しています。健康管理の重要性を自覚することのできる小冊子です。
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