今まで6回にわたって、生活習慣病などの病気が運転に与える影響を紹介してきましたが、実はどのような人であっても運転時の健康リスクが増幅されるケースがあります。
それは睡眠不足です。SASなどの睡眠障害を患っていない人でも、睡眠時間の不足による心身の過労が健康問題をより深刻にする危険があることを認識しておきましょう。
厚生労働省などの過労死に関する疫学的調査によると、働く人の一日あたりの残業時間が4~5時間を超え、睡眠時間が5~6時間を下回ると、脳疾患・心臓疾患のリスクが高まり、過労死に結びつきやすいとされています(※1)。
また、国土交通省が実施した過労運転死亡事故の分析によると、運行直前の休息期間における睡眠時間が6時間を下回ったことによる事故事例が顕著に多いことが指摘されています(※2)。
長時間労働と睡眠不足の悪循環で死亡リスク・交通事故リスクが高まっています。睡眠時間の少ないドライバーは、仕事の都合で眠る時間を削っている人が多いのではないでしょうか。
※1 産業医の職務Q&A(第8版)【厚生労働省労働衛生課】
※2 過労運転による事故を防止するための対策(中間整理)【国土交通省】
●深夜運転の危険要因は第一に睡眠不足!
国土交通省の事故分析でも、睡眠不足が関係したことによる深夜の死亡事故が目立ちます。深夜運転の前には、十分な睡眠で自分自身を守る必要があります。
とくに高血圧などの疾病を抱えている運転者は、残業が続いて睡眠が減るような実態がある場合、会社と相談して深夜運転などのシフトを減らしてもらうようにする必要があります。
●持病のある人ほど、明け方にリスクが高まる
人間の生体リズムでは明け方に眠気や疲労が高まるので、健康な人でも明け方はリスクが高くなります。さらに、血圧が高い人や心臓に不整脈などの既往のある人は明け方の時間帯に症状が悪化するリスクが高まります。
また、早朝の時間帯は都市部高速道路の出入口などが大型車で混雑する傾向があります。混雑によるストレスや、混雑を回避していち早く都市内の道路に入りたいと急ぐ心理も生まれ、ドライバーの心身疲労を高める要因になります。
このため未明に、発作などを起こして事故に結びつく危険が高くなるのです。
明け方には無理をしないで、少しでも不安を感じたら早めに休憩をとりましょう。
●睡眠不足は高血圧症になりやすい
左の図は、ボストン大学医学部のゴットリブ教授による「慢性的な睡眠不足と高血圧の危険率」を示した研究です(対象人数は5910人)。6時間未満の睡眠が続くと、収縮期血圧(上)が140mmHg以上、拡張期血圧(下)が90mmHg以上の高血圧症になる危険が1.66倍にまで高まります。
長時間睡眠の場合も悪いのは、睡眠の質が下がったり生活のバランスを崩している人が多いことが原因です。
(Boston University,Gottlieb)
●分割休息が続くのは危険です
プロドライバーの場合、拘束時間の後に連続8時間以上の休息期間をとることが告示(※3)に定められています。
しかし、特例として4時間以上であれば分割休息がとれる(合計で10時間以上)という定めもあります。通常は、2~4週間の勤務の2分の1以内で、こうした分割休息をとることが認められていますが、特例の範囲内であっても、これが常態化すると、大変危険であることを意識しましょう。
通常は8時間以上の休息期間が確保され日常的に6時間以上の睡眠がとれているドライバーであれば、たまたま4時間半程度の休息で運転を再開しても問題は少ないでしょうが、5時間程度の休息が日常的に続く状態では全く事情が違います。
●分割休息をした後は、確実な睡眠をとる
分割休息はなるべく例外的な休息に止め、何日も連続しないように注意しましょう。4時間程度の睡眠で運転を始めた場合は、運転時間をなるべく短くして、次回休息時には、長時間の余裕をもち、十分な睡眠と休養時間を確保するように心がけて下さい。
※3 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準【厚生労働大臣告示】
持病があり不安をもつ方、睡眠時間が短くなりがちの方は、以下のチェックポイントに当てはまることがないか、リスクのチェックをしておきましょう。
とくにプロドライバーは睡眠不足がハイリスクを招くことを自覚し、勤務シフトなどを管理者と相談してください。
□ 6時間未満の睡眠が続いていないか
□ 運転前作業に時間を取られ睡眠時間を削っていないか
□ 車中休息が続き、眠りが浅くなっていないか
□ 睡眠不足のとき血圧が上昇していないか
□ 眠れない日が続くと不整脈がひどくなっていないか
□ 悩み事で眠れないのに、運転が休めず困っていないか
深夜に運転する場合は
運転前に6時間以上の睡眠をとる
分割休息をしたら
次は正規の長い休息をとる
眠気がするときは
20分程度の仮眠をして様子をみる
睡眠不足で苦しい人は
無理せず休息し、血圧などを測定する
(シンク出版(株) 平成26年3月17日更新)
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・事故に結びつく健康リスクを意識しよう⑥──健診を軽視する危険
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