飲酒運転の罰則が厳しくなるなどして、飲酒運転による死亡事故などが減少傾向にあることから、マスコミ等でも飲酒運転の危険を以前ほど取り上げなくなりました。
そのような中で、弊社でも飲酒運転に対する危機意識が薄くなりつつあるように感じているのですが、万が一、飲酒運転による事故が発生した場合、会社に責任がかかってくるとしたらどういうケースでしょうか。
近年の道路交通法や刑法の改正で、飲酒運転についても罰則が強化され、また報道等による影響もあって、飲酒運転の数自体は減少しているとも言われています。
しかし、もちろん飲酒運転が許容されるような事情はなく、万が一事故が生じた場合の責任が軽減しているわけでもありません。
ご質問のように危機意識が薄くなりつつあるという状態は、会社のコンプライアンスの見地からしても、逆に非常に危険な状態であると認識すべきであり、万一の場合の対応等を特に入念にすべきです。
従業員の飲酒運転で事故が生じた場合、会社に生じる可能性がある責任は、大きく刑事責任、民事責任、行政責任の3つが挙げられます。
またこのほか、具体的な規定に基づくものではありませんが、飲酒事故によって、会社や従業員は社会的責任を負うといえます。従業員が職を失ったり、会社のイメージの低下、あるいは悪評によって業績が悪化し、ひどいときには倒産したりすることも考えられます。
会社が従業員に、飲酒で正常な運転ができないおそれがある状態での運転をさせ、またはそのような運転を容認していたような場合には、道路交通法の酒気帯び運転等の禁止違反として、代表者や運行管理責任者などの会社の責任者も5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されるおそれがあり、会社に対しても、100万円以下の罰金又は科料を課せられる可能性があります。
会社の業務上といえ、明らかに会社の対応のまずさによって飲酒運転が生じたといえるような場合には、刑事責任が科される可能性があるため、十分注意が必要です。
運転者である従業員が、会社の業務において自動車を飲酒運転し、事故を起こした場合、民事的にも不法行為の要件を充たすことがほとんどです。たとえ事故が生じた直接の原因は別にあり、飲酒が直接の原因ではないような場合でも、従業員が飲酒運転であったこと自体で、事故を起こした側の過失割合は大きくなるといえます。
そして従業員の交通事故を起こした場合には、原則として会社も被害者へ直接の賠償責任を負います(民法715条、自動車損害賠償保障法3条)。特に飲酒について会社が許容していたような事情があれば、更にその責任は重くなるといえますので、業務管理や従業員教育が一層重要であるといえます。
使用者責任の責任の範囲は物損も含み、運行供用者責任は車両運行による人身事故に限るという違いはありますが、いずれの場合も直接の業務上といえなくても、事実上会社側の指揮監督が及ぶ状況で起こった事故を広く含みます。条文上は一定の要件を充たせば責任を免れる条項がありますが、実際には非常に厳しい要件であり、事故に備えて、各種保険への加入はしておくべきです。
なお、保険の契約上、飲酒運転の場合に保険金が出るか、後日求償されるか等については確認しておく必要はあります
その他、会社が貨物・旅客運送事業者であるような場合で、従業員が飲酒運転で事故を起こしたような場合には、会社に一定期間の車両使用停止、事業停止、営業許可取消処分等の処分が科せられることがあります。