交通事故が起こると対策をとる事業所でも、運転者の違反には無頓着な場合が少なくありません。
あなたの事業所では、運転者がプライベートの運転を含めてどのような違反をしているか正確につかんでいますか?
運転者の運転適性を把握する上では、違反の実態をつかむことが重要です。
交通事故を繰り返すドライバーは、交通事故の発生確率が高いことが、交通事故総合分析センターのデータで明らかになっています。
下のグラフは過去3年間の違反回数別にその後の3年間の人身事故発生率を比較したものです。
違反回数が増えるほど事故発生率が高くなり、違反5回以上の運転者は違反ゼロの運転者の2.1%に比べて、3.8倍もの確率となっています。
違反を繰り返していた運転者が園児4人を殺害
──携帯プレーヤーにわき見するクセがあった
平成18年9月25日午前9時55分頃、埼玉県川口市の市道で会社員(38)がライトバンを運転中、助手席に置いていた携帯音楽プレーヤーを操作しようとして、わき見運転をしていたため保育園児らの列に突っ込み、園児4人を死亡させました。この事故では、他の園児や引率中の保育士ら17人も重軽傷を負っています。
この会社員は人身事故を起こすのは初めてでしたが、過去に5回もの交通違反を繰り返して免許停止処分を受けた経験があり、事故の3か月前にも、同様に携帯プレーヤーへのわき見運転による物損事故を起こしていました。
刑事裁判の裁判官は「被告人の無謀で危険な運転性癖には根深いものがあり、運転者としての適性を欠くため重大事故を招いた」と厳しく批判し、当時としては交通事故の最高刑(業務上過失致死傷罪)である懲役5年を言い渡しています。
(さいたま地裁 平成19年3月16日判決)
自動車安全運転センターが約7万4千人の運転者データをもとに実施した調査によると、過去6年間に無事故・無違反で過ごした運転者は意外に少ないことがわかります(※)。
年齢層別にみると、男女とも25歳~29歳の割合が最も低く、男性ではわずか3割程度であることがわかります。交通事故の第2当事者である事故・無違反者の構成率は、男女ともほぼ3%前後ですから、多くの運転者が違反の経験があることになります。
図の調査データには過去6年以前の事故・違反歴は入っていませんので、免許取得以来、無事故・無違反である者の構成率は、およそ30%前後と推測されています。
このような背景を考えると、事故や違反を犯す人は決して珍しい存在ではなく、事業所の運転者の違反や事故の実態について把握することは重要であると思われます。
※自動車安全運転センター「安全運転に必要な技能等に関する調査研究」より
ご承知のように、運転者の事故違反の履歴は「運転経歴証明書(運転記録証明書、または無事故・無違反証明書)」を自動車安全運転センターから発行してもらうことで明らかになります。本人からの自己申告を待っていては、違反はもちろんプライベートで発生した交通事故の把握も難しいでしょうから、ぜひ証明書の活用をおすすめします。
この証明書は、本来は運転者本人が申請するものですが、事業所の場合、本人同意書類があれば一括して申請することができます(証明書交付手数料は1通につき630円)。
また、まとまった人数を申請した事業所には、違反や事故の内容を分析した資料を提供してもらえます。これで自社の違反・事故の傾向がわかるだけでなく、所属業種の事故違反率平均と比較することができます。
過去1年以上の無事故・無違反者に対しては年数に応じたSDカードが発行されますので、これを機会に優良運転者表彰などを実施することにもつながります。
運転者に応じた指導の方法については、次回に紹介します。
■青ナンバーは新規採用時に事故歴等の把握義務がある
なお、トラック、バス・タクシーなど自動車運送事業を営む事業所の場合は、平成21年より新規採用の選任運転者に関して、運転記録証明書により過去の事故歴などを把握することが、告示で義務づけられています。
新任運転者の運転記録証明書申請を指示する機会に、全員の運転者の証明書を申請し、事業所全体で無事故・無違反運動などに取り組んではいかがでしょうか?
(国土交通省告示 『自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針』第2章5──新たに雇入れた者の事故歴の把握──より(平成21年10月1日改正・施行)
●「……自動車運送事業者等は、運転者として常時選任するために新たに雇い入れた場合は当該運転者について、自動車安全運転センターが交付する無事故・無違反証明書または運転記録証明書等により、雇い入れる前の事故歴を把握し、事故惹起運転者に該当するか否かを確認すること」
●「確認の結果、新たに雇い入れた者が事故惹起運転者に該当した場合は、特別な指導と適性診断を受けさせること」