会社によっては、懲戒処分や業務命令に基づくペナルティの一つとして、従業員に金銭的制裁を与えたり、質問のようなボーナスカットをしたりすることがあるかもしれません。
しかし、労働基準法等は、特に従業員に対する金銭的なペナルティには慎重な姿勢を採っており、特に注意を要します。
まず、労働基準法第16条は、労働者に対する損害賠償の予定を禁止しているため、「交通事故を起こしたら○○万円払う」などとあらかじめ金額を決めておくことは禁止されています。
また同法第24条では、原則税金や労使間の合意があった場合を除き、会社が従業員の給与からの天引きすることを禁止しています。そのため、合意がない限りは給与から差し引いてもいけません。
さらに、就業規則上の減給の懲戒処分をする場合でも、同法第91条には減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないと規定しているため、この定めに反する処分はできません。
質問では、前項のような手段ではなく、ボーナスをカットするとしています。この点、通常の賃金等をカットしたり、新たに罰金を科したりするのとは異なり、会社が従業員について、次期に出る具体的なボーナスをカットするという判断をすること自体は、ただちに違法とされないことが多いといえます。
ボーナス自体については労働基準法等には具体的な規定がなく、会社の裁量とされていることが多く、具体的なボーナスの査定において、具体的事故の発生等を考慮することは会社の裁量の範囲内といえるからです。
しかし、労働契約や労働協約、就業規則で支給方法や算定の条件が定められている場合や、会社の慣例上、会社に支払義務が存するとみられるような場合には、会社は支給する義務があります。このように、ボーナスをカットすることが賃金をカットすることと同様であると認められる場合には、質問にあるような規定を事前に定めることは、違法とされる可能性がありますので、注意する必要があります。
なお、実際に従業員の責任で起きた事故について、会社が損害賠償責任を負った場合、会社はペナルティとしてではなく、損害の公平な負担という見地から、当該従業員に求償すること自体は認められます(民法第715条3項)。
ただし判例では、従業員に過失がある場合でも、信義則上、賠償額を減額するものが多数であり、認めないものもあります。たとえば労働過程上の軽過失に基づく事故については、公平の原則に照らして、損害賠償請求権を行使できないと解したものや、相当な過失がある場合であっても、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度に限るとして、4分の1程度しか認めなかったものなどがあります。
以上のように、従業員へのペナルティを科す場合には、原則として社会通念上相当なペナルティを就業規則で明確に定めておく必要があり、また業務命令として行う場合には、より妥当な範囲で行う必要があります。
ただし、ペナルティを定め、実際に科すことは、一定の抑止効果はあるとは思われますが、あくまでも事後処理であるといえ、必ずしも事故の発生を抑えることができるとは限りません。
まずは、そもそも「交通事故が絶えず」発生するような業務内容、及び安全管理体制を見直すことが是非とも必要だと思われます。
(執筆 弁護士 清水伸賢)