薬物を使用して正常な運転が困難な状態で自動車を運転し、その結果人を死傷させたような場合には、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の危険運転致死傷罪によって処断されることになります。この点、同法における「薬物」も必ずしも薬事法等の規定に囚われず、広く危険ドラッグを含むと解されます。
同法における危険ドラッグと運転との関係では、まず薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為によって、人を負傷させた場合は1月以上15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役の適用があります(第2条1項)。なお、被害者が複数の場合は、その長期は30年まで上げられます。
また同法は、薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よってその薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた場合は1月以上12年以下の懲役、死亡させた場合は1月以上15年以下の懲役としています(第3条1項)。同規定は、同法の成立にあたり、刑法等の規定にはなかった要件を加えたものです。
上記各条にいう「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況などに応じた運転をすることが難しい状態になっていることをいう、とされています。
そして「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、「正常な運転が困難な状態」にはなっていないけれども、自動車を運転するのに必要な注意力・判断能力・操作能力が相当程度低下して、危険である状態のことをいうとされています。
同法が成立するまでは、薬物等の影響による死傷事故について、危険運転致死傷罪における「正常な運転が困難な状態」に該当しなければ、自動車運転過失致死傷罪(同法における第5条の過失運転致死傷罪・1月以上7年以下の懲役もしくは禁錮、又は100万円以下の罰金)が適用されていました。
しかし「正常な運転が困難な状態」であるかどうかの立証は困難な面も多く、運転開始時に運転者に同状態である認識がなかったような場合なども、適用が困難であることなどから、批判が高まり「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」という緩和した要件を定めたのです。
これにより、例えば危険ドラッグの事例でいえば、運転当初は「困難な状態」ではなく、「支障が生じるおそれがある状態」に留まっていたが、段々薬物が効いてきた結果「困難な状態」になって人を死亡させたような場合、同法以前の規定では、7年以下の懲役もしくは禁錮とされるところ、同法により15年以下の懲役の適用が可能となったのです。
しかし、その定義は曖昧な面が否定できず、交通事故の被害者側からは、結局適用が困難となるのではないかとの意見、運転者側からは、規定が曖昧すぎて処罰範囲が拡大しすぎるおそれがあるとの意見があります。
危険ドラッグと自動車の運転に関する罰則等は、以上のように分類できますが、事故の具体的な態様や原因によっては、上記の3つの罪がそれぞれ成立する場合が考えられます。その罪数関係はケースによって変わりますが、会社としてのリスク防止の観点からは、併せて科される可能性があると考えておいてよいでしょう。
そして、会社の責任としては、使用者責任、運行供用者責任等の民事責任は当然生じてきますし、上記のように万一業務によるとされた場合、両罰規定に該当すれば、会社自体に罰金刑が科される可能性もあります。
危険ドラッグと呼ばれる薬物については、法律の規制等はどうあれ、その使用等によって得られるものより、失うべきものが圧倒的に多いものです。
会社として採るべき対応は、ただ一つ、そのような薬物の使用は、絶対的に禁止し、従業員にも指導することでしょう。それが会社自身の責任を軽減することにもなり、薬物等に対して厳しく対処することによって、会社の社会的責任を果たすことにもなるといえます。