交通事故で会社が損害賠償責任を負わないケース2

◆免責規定により会社の責任を否定した裁判例

 前項の規定により会社の責任を否定した裁判例としては、以下のようなものがあります。

 最高裁判所は、「(信号機により交通整理が行われている場合には、)同所を通過する者は、互いにその信号に従わなければならないのであるから、交差点を直進する車両の運転者は、特別な事情のないかぎり、信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想して、交差点の手前で停止できるように減速し、左右の安全確認すべき注意義務は負わない」として加害車両の責任を否定しており(最高裁 昭和48年6月21日)、同様の判断をした裁判例があります。


・裁判例1

 夜間、見通しの悪い交差点で青信号に従い交差点に進入した加害車両と、赤信号を無視して無灯火で走ってきた被害原動機付自転車との衝突した事故について、加害車両の運転者には特に過失が認められず、他方、被害原付の運転者には大きな過失が認められ、加害車両には特に構造上の欠陥又は機能上の障害がなかったとして、責任が否定されています(東京地裁平成6年6月9日)。

・裁判例2

  交差点の出合頭の事故で、加害車両が制限速度違反(制限時速30km/時のところ55km/時で走行)で進入したが、被害原動機付自動車が対面信号が赤信号であるにもかかわらず交差点に進入した事故において、加害車両には信号無視及び前方不注視は認められず、制限速度違反はあったものの、本件事故の結果との間に因果関係はなく、他方被害原付には少なくとも赤信号を看過した過失があり、本件事故は加害車両の構造上の欠陥又は機能の障害が関係するものではなかったとして、責任が否定されました(東京高裁平成25年9月19日)。

◆運行支配・利益がないなどの事情により責任を否定した裁判例

 次は、会社の指揮等が及ばなかったり、運行支配・利益がないために会社の責任を否定した裁判例です。

・裁判例3

 下請会社の従業員が現場から他の従業員を自宅へ送っていく途中の事故について、元請会社の責任が追及された事案で、具体的事情を検討した上で、同運転行為には、元請会社の支配の監督が「直接にはもとより間接にも及んでいないというべきである」として使用者責任が否定されました(名古屋高裁平成24年3月29日)。

・裁判例4

 被害自転車と加害原付の事故について、加害原付を通勤に使用していた場合において、種々の具体的事情を検討した上で、本件の通勤態様は会社の事業執行と密接に関連していたとまではいえず、加えて、原付に会社の名称の記載もなく、加害者が通勤時に被告会社の制服を着ていなかったことも考慮すると、通勤が会社の事業執行と密接な関係にあるとの外観があったということも困難である。そうすると、本件事故が被告会社の事業の執行につき発生したとはいえないので、会社に使用者責任が成立するということはできないとして会社の責任が否定されています(大阪地方裁判所平成25年7月16日)。

◆とはいえ、会社が責任を免れるケースは少ない

 以上のように、従業員が交通事故を起こした場合でも、会社の責任が常に認められるというわけではありません。
 ただ、交通事故が起きる場合には、何らかの形で過失等が存することが多く、件数としてはやはり会社の責任が認められる事例が多いといえ、会社が責任を免れる事例は少ないといえますので、その点も十分に理解した上で従業員に対する日々の安全管理教育や事故後の対応の検討を行っていくべきです。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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