業務中の従業員が自動車を運転し、事故を起こして第三者に損害を与えた場合、会社は使用者として使用者責任(民法715条)を負い、また運行供用者として運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)を負います。
結論からいえば原則として会社は被害者に対する責任を負うことになり、定められたルートを外れていたからといって、被害者に対する会社の責任が減免されることはないと考えるべきです。
使用者責任が生じるためには、「その事業の執行について」第三者に損害を与えた場合でなければなりません。
ただ「事業の執行」かどうかは比較的広く解されていて、従業員の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、従業員の職務の範囲内の行為に属するものと認められる場合も包合するとするのが判例です。
特に運転行為は特殊な事情が無い限り外形的に「事業の執行」とされるといえ、質問のようにルートを外れたというだけでは、例えサボっていたような場合の事故であっても、会社の「事業の執行について」損害を与えたとされます。
次に運行供用者責任は、運行供用者に対し、「その運行によって他人の生命又は身体を害したとき」賠償責任を認めるものです。運行供用者は、「自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用によって享受する利益が自己に属する者」(最判昭和43年9月24日)で、運行支配は間接的支配ないし支配の可能性、客観的・外形的な支配で足りるとされ、運行利益についても広く解されています。
そのため、基本的には従業員が会社の自動車で事故を起こした場合には運行供用者責任が認められることになり、質問のように従業員がルートを離れてサボっていたとしても、そのことを理由に会社が被害者に対しての責任を免れたり減軽されたりするのは困難です。
会社が責任を免れるのは、通常の事故の場合と同様、使用者責任では「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」、運行供用者責任では「自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したとき」ということになります。
この点、質問のように定められたルートを従業員本人が勝手に外れたなど、従業員本人の行為が大きな原因となっているような場合には、会社の責任が減軽されても良いのではないかという意見もあるでしょう。
しかし、被害者からすれば、会社と従業員本人は、共同して被害者に対して不法行為を行ったとみなされるのであり、質問のような場合に被害者に対する会社の責任が減軽されるような事情はないと考えるべきです。
会社としては、勝手にルートを外れた従業員が悪いと主張したいところでしょうが、見方を変えれば、ルートを外れたのは会社の同従業員に対する指導・管理監督が不足していたからだとも考えられます。
判例には、従業員が会社の自動車を無断使用した場合の事故に、会社の使用者責任を認めた事例があるくらいですので(最判昭和46年12月21日)、少なくとも質問のようにルートを外れていただけでは、被害者に対する会社の責任を減軽する事由にはならないと考えるべきです。
なお、被害者に対する会社の責任は減軽されませんが、会社としては、被害者に賠償した金額の一部を従業員個人に対し求償することは考えられます。
以上のとおり、質問のように、従業員が勝手に会社の定めたルートを外れてサボっていたとしても、事故が起きた場合には、会社に被害者に対する責任が認められるといえます。
会社としては、従業員に対してルートを外れるといった勝手な行動が、自身だけでなく、会社や他の従業員に迷惑を及ぼすことを理解させるような教育を十分行っておくべきです。
(執筆 清水伸賢弁護士)