トラックドライバーの健康管理をテーマにセミナーを開催(その2)

 京都府トラック協会主催/法令遵守セミナー「トラックドライバーの健康管理について──その1より続いています。

 

■トラックドライバーの運転ストレスと身体への影響を実測

★いったん心拍数・血圧が上がると

 容易に下がらない

 以前、北海道で8名の長距離トラックドライバーの協力を得て、全行程に同行してドライバーの血圧・心拍数の変化などを調査したことがあります。

 

 この研究でわかったことは、対向車線での事故を目撃したなど、ヒヤリ・ハットしただけで、血圧がガーンと上がってしまいそのまま下がらない、しかも心拍数も上がって、不整脈も頻繁に出て……と身体的に非常に厳しい状態になることです。

 路面凍結をしたところを通り、ヒヤリとしただけで血圧が上がったままのドライバーもいました。

 高血圧の既往のあった人は不整脈も出て非常に危険な状態になったことがわかりましたので、帰社後すぐに専門医への受診を薦めました。

 

 さらに、平常時には血圧に問題ない人でも、運転すると急に血圧が上がったり、荷積みをするとさらに上昇し危険な状態になるということがわかりました。

 こうした方は定期健康診断では血圧も正常で「異常なし」で終わっていると思います。

 

 長距離トラックだけでなく、市中の配達などに従事しているトラックドライバーの場合の調査でも、狭い道路など運転が難しい状況になると、血圧が急激に上昇してくるということがわかってきました。

 

 これらの結果を経て、トラックの運転というのは高い緊張の連続を強いられ、血圧が上がって心臓にも高いストレスを浴びて運転しているのだから、最初述べたように心臓疾患や脳血管疾患の事故率が高いのだということを痛感しました。

 

 たとえ運転に慣れたベテランドライバーの方でも、又、日常では健康に見える方でも大丈夫だとは言えません。彼らが、事務職の労働者にはない強い緊張に常にさらされているのだということを、認識していただきたいと思います。

「食事が不規則」なため、薬も正しく飲めない危険性がある

 トラックドライバーの生活習慣でもうひとつ問題なのは、長時間労働の人は食事の間隔が不規則になったり、深夜起きているため食事回数が増えているケースが少なくありません。

 このためメタボリック症候群になりやすいだけでなく、薬を服用している人が正しい間隔で薬が飲めない危険性があります。

 

 医師が「一日3回食後服用」といった処方をするのは普通の時間帯に食事をとると想定して、体内の薬の濃度がおよそ一定になるように出しているのです。

 たとえば、高血圧の薬を一日3回飲んでも、朝食は明け方、その後昼食は3時近くにしか取れず、夕食は早めといったケースでは、体内の薬の濃度が一定になりません。まして医師は、夜中は寝ているので血圧は下がると思って夜の薬は出していないにも関わらず、実際には夜通し走行し荷積みをして、血圧が上がっているというおそれもあるのです。

 

 ですから、自分が深夜勤務をしているなどを医師に報告して、仕事のやり方にあった処方をしてもらう必要があります。食後などにこだわらず、きちんと時間間隔を守った服用を優先する薬かどうか、確認していただきたいのです。

睡眠不足は、酒気帯び運転に近い状態になる

 さて、一般に過労死の判定をするとき国際的な研究成果から、「6時間睡眠」がとれているかどうかが、一つのラインであることがわかってきました。

 

 男性の生活モデル24時間のなかで、食事・風呂・団欒や通勤・労働時間などをひくと1日10時間が個人の時間となり、4時間残業すると睡眠時間は6時間になります。つまり一月に80時間以上の残業をしている人は6時間の睡眠がとれていないことになり、こうした人が心筋梗塞などで亡くなった場合、過労死と認定してもよいのではないか、という考え方になっています。

 「ネイチャー」に掲載された論文によると、連続して起きている時間が15時間を超えてくると人間の判断力や行動能力が低下し、呼気中濃度が免許停止になる0.15mg/Lの酒気帯び運転と同じ状態に陥ることがわかっています。

 さらに、ぶっ続けで労働するのが17時間を超えると、0.25mg/Lと免許取消になる飲酒運転の状態と同じになります。

 

 皆さんはトラックドライバーが毎日どのぐらいの時間睡眠を取っているのか意識しておられますか。これはとても重要なことです。人間は、寝ないで仕事をしたら、酒気帯び運転同様に、大きなミスをするのは避けられません。

 ですから、改善基準告示で拘束時間が16時間を超えてはいけないというのは、こうした人間の身体の限界という事実も踏まえているということを知っておいていただきたいのです。

適切な仮眠をとることで血圧が低下する

 また、これはあるパン工場での調査ですが、深夜労働をしていても、適切な仮眠をすると、血圧が下がるということがわかっています。

 

 深夜に疲労してくると、人間の身体は血圧を上げて頑張ろうとします。「もう少しだけ頑張って」などと、無理をさせないで、適切な休憩・仮眠をとることが重要なのです。

 

 とくに何日も長距離運転を続けているときには、1日目より2日目、2日目より3日目には早めに休憩をとる、休憩を何度もとる、長めの十分な仮眠をとるといったことを指導することが大切です。

 

 貨物自動車運送事業では、長時間運転や過労運転を防ぎ、健康管理をして安全運転を守ることは、事業主の法的な責任となっています。

 運送事業の健康管理の重みは他の一般企業の比ではなく、社会的な大きな責任を負います。

 さらに、従業員への安全配慮義務は企業の重要な責任であるということを意識して、管理・指導に努めていただきたいと思います。

トラック事業の健康管理はリスク管理に直結する

垰田和史准教授

 講演の最後に、垰田先生は同協会が資料として配布したドライバー向けの小冊子「健康管理と安全運転」を示して、ドライバー自身が健康管理の必要性を理解するうえで役立ててほしいと強調しました。

 内容として、高血圧既往のあるバスドライバーが三重県で突然死した事故の事例や、花粉症薬には副作用があるので、薬局で確認することを教える事例など、いくつかマンガで表現された部分などを引用して解説しました。

 

垰田 ドライバーの健康管理は会社の安全管理に直結します。このことをドライバー教育の場でもお互いに確認して、今後のリスク管理を進めていただきたいと思います。

 ご静聴、ありがとうございました(拍手)。

 

セミナー主催:京都府トラック協会

取材:構成 シンク出版株式会社


■マンガでわかる「運転における健康リスク」

健康管理と安全運転

 この小冊子では、ドライバーが健康管理を徹底していなかったために発生したと思われる、重大事故等の6つの事例をマンガで紹介しています。

 

 各事例の右ページでは、垰田和史 滋賀医科大学准教授(医学博士)の監修のもと、日々気をつけなければならない健康管理のポイントをわかりやすく解説しています。

 ドライバーが健康管理の重要性を自覚することのできる小冊子です。

 

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