最近、運転中に体調を崩して事故を起こす、いわゆる「健康起因事故」をニュースなどでもよく耳にします。弊社は運送会社ですので、定められた健康診断を実施し、点呼も毎日実施しています。ただ、ドライバーのプライバシーにも関わる問題ですので、どこまで踏み込んで、個人の健康問題について指導するべきか悩んでいます。会社として、どの程度、ドライバーの健康を管理しておくべき責任があるのでしょうか?
業務において従業員が交通事故を起こした場合、原則として会社は運行供用者責任や使用者責任を負いますが、いわゆる健康起因事故においても、会社の健康管理に不十分な点があれば、責任を負う場合が多いといえます。
なお、運転者が精神上の障害で意識を失うなどして事故を起こした場合、そのような状態に陥ったことに故意や過失がなければ、運転者は責任を負わないとされます(民法713条)。そして運転者が責任を負わない場合は、会社は同じ民法上の規定である使用者責任(民法715条)を負わないとされています。
しかし、このような場合でも、運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)については、会社はその適用を免れないとするのが裁判例です(東京地方裁判所平成25年3月7日判決、釧路地方裁判所平成26年3月17日判決)。
すなわち、健康起因事故で会社が責任を免れるためには、運行供用者責任の免責事由が必要になりますので、会社としては、自動車の運行に関し注意を怠らなかったことを立証する必要があり、少なくとも従業員の健康状態を把握し、その対策を十分採っていたといえる事情がなければならないと理解しておくべきです。
会社は、従業員に対する安全配慮義務を負いますので、その健康管理にも留意する必要があります。労働安全衛生法は、健康診断等、会社が行うべき従業員に対する健康管理の内容を定めており、会社はその内容を遵守する必要があります。
また、貨物自動車運送事業法の適用を受ける事業者は、貨物自動車運送事業輸送安全規則により、点呼等、日々の運転業務等において行うべき事項が規定されています。
会社としては、少なくともこのような法令等を遵守する必要があり、また具体的に従業員の健康に問題があると考えられるような事情がある場合には、業務内容やルート、運行計画等の見直しを適宜行うべきですし、できる限り従業員の既往症や病状等の情報を取得しておくべきといえます。