ただ、このような情報は、極めて個人的なものであり、従業員のプライバシー保護の観点から、取り扱いは慎重にしなければならず、個人情報の保護に関する法律(いわゆる個人情報保護法)の定めに従うことが必要になります。
また、平成24年7月1日から適用されている厚生労働省の雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン(厚生労働省告示第357号)も個人情報の保護のための指針となります。
この点、よく個人情報だから収集等が禁じられるのではないかなどと誤解されることがありますが、個人情報保護法や上記ガイドラインは、必ずしもそのように定めているわけではありません。
これらの規定は、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的としており、個人情報の適正な取り扱いの確保を志向するものです。
もちろん必要もないのに収集等をすることは避けなければなりませんが、必要な個人情報については、適正な手続によって取得することは許され、そのような情報は適切に保護等しなければならないとされているのです。
同法、及びガイドラインの規定の詳細は省きますが、簡単にいうと、個人情報の収集等においては、その利用目的を可能な限り具体的に特定し、本人にも通知等しなければならず、また適正に取得した個人情報は、正確かつ安全に保管しなければならないと定められています。
以上より、従業員の健康管理のための個人の健康診断の内容や、既往歴等の情報等も、これに従った配慮が必要ですが、必ずしも収集等が禁じられているのではないといえ、会社の安全配慮義務や法令上の義務の履行のために必要な範囲であれば、むしろそのような情報管理が必要といえます。
また、会社としては、業務上、従業員に対する健康管理上の個別の指示や指導が必要な場合もあります。具体的指導等について、どこまで踏み込むかという点は具体的な場合によって異なりますが、上記法令による義務の範囲内であれば可能ですし、少なくとも運転業務等に支障がある可能性があれば、会社として放置するわけにはいかないため、必要な指示や指導を行って良いといえます。
もちろんその場合も、個人のプライバシー等には十分な配慮が必要です。そのための具体的な措置として、例えば、予め就業規則においてそのような規定を盛り込んだりして従業員にも理解させたり、情報の保護の手法を確立させたり、健康診断の情報等を取り扱う場合に個人情報の保護を図ることができるよう、マニュアルや書式等を具備したりしておくなどの対応を採ることが考えられます。
以上のとおり、会社としては、健康起因事故を未然に防ぐため、個人情報の保護には留意しつつ、法令等に従い、従業員の健康状態等を管理すべきであり、業務内容や運行スケジュール等が従業員の健康等にとって過重な負担となっていないか等の確認が必要です。
また、従業員に対しては、個々人の健康状態を把握し、それぞれに応じた業務となるように配慮すべきですし、さらに従業員自身にも健康管理は自己、会社、第三者等に対する被害を防ぐために重要であることを周知しておくべきです。
(執筆 清水伸賢弁護士)