上記のとおり道路交通法上は、シートベルトをさせる義務が運転者にあることなどからすれば、同乗者がシートベルトをしていなかったこと自体が運転者の落ち度と捉えられることが多いといえるので、必ず過失相殺されたり、運転者の責任が減少したりするというわけではありません。
しかし具体的事情を検討した結果として、損害の内容やシートベルトを着用していなかったことの経緯等によっては、過失相殺がされたり、損害への寄与の割合に応じて損害賠償額が変化したりすることが考えられます。
一般的には、シートベルト非着用が損害に関係するような場合、運転者が漫然とシートベルトの着用等を確認せずに運転していた場合は、運転者の責任は重くなります。運転者は注意を促していたのに、同乗者があえてシートベルトを着用しなかったような事情があれば、相対的に運転者の責任が軽くなることが考えられます。
特にシートベルトをしていなかったために車外に放出されたような事例においては、同乗者側の過失が認められる場合もあります。
以上のとおり、シートベルトの非着用が原因で損害が生じたり、拡大したという関係にあったり、運転者の注意等にもかかわらず着用しなかったような場合には、運転者の責任が軽減される場合があるといえます。
しかし、運転者の責任が軽減される場合があるといっても、一般の事故の態様からすれば、シートベルトの非着用と損害等との関係は必ずしも明確な場合ばかりではなく、それを裁判等で証明することが困難な場合もあります。
なお質問のように、同乗者が妻などの家族の場合でも、シートベルト非着用について当然に運転者の責任が増大しないとはいえません。法律的にいえば、責任や損害賠償義務については家族であるからといって軽減されるものではなく、同条の経緯等の個別的な事情により軽減されることがあったり、家族としてわざわざ請求等をしないことや、被害者と加害者のいわゆる財布が一緒のことが多いために金額として反映されないことが多かったりするだけと考えるべきです。
ましてや、取引先や社内の人間を同乗させる時は賠償の主体も異なるため、現在では基本的に通常の損害賠償と同様に考えなければなりません。
また、シートベルトをしていた時より、していなかった場合の方が実際に生じる損害が明らかに大きくなるであろうことは当然です。
そもそも、自動車の運転にあたって法律や交通ルールを守ることは当然の大前提と考えるべきです。そのため罰則等の有無や損害額の多少にかかわらず、シートベルトの着用は必ず行うようにさせるべきです。
(執筆 清水伸賢弁護士)