6月1日の道路交通法改正で、違反を繰り返す自転車利用者に対する講習受講が義務づけられるなど、自転車の運転に対する関心が高まっています。弊社では自転車乗車中においても決して違反をしないように指導していますが、万が一、違反が原因で事故を引き起こした場合(逆走が原因で、左側走行の自転車が車道にはみ出し四輪車に追突されるなど)、どの様な罪に問われるのでしょうか。今回の道路交通法改正のポイントと合わせて解説してください。
近年、自転車の危険な運転による事故が問題になってきていることに対応し、今回の道路交通法の改正において、自転車利用に対する規制が追加されました。
14歳以上の者が、以下の自転車運転での危険行為を行い、3年以内に2回摘発を受けた場合、3時間の自転車運転者講習の受講をする義務を負うことになります。その受講命令に反した場合、5万円以下の罰金という刑事罰を負うことも定められました。
同制度における危険行為とは、1・信号無視(第7条)、2・通行禁止違反(第8条第1項)、3・歩行者用道路での徐行義務違反(第9条)、4・通行区分違反(第17条第1項、第4項又は第6項)、5・路側帯での歩行者妨害(第17条の2第2項)、6・遮断踏切立ち入り(第33条第2項)、7・交差点での優先車妨害(第36条)、8・交差点での右折時における優先車妨害(第37条)、9・環状交差点での安全進行義務違反(第37条の2)、10・指定場所一時不停止(第43条)、11・歩道通行での歩行者妨害(第63条の4第2項)、12・ブレーキのない自転車運転(第63条の9第1項)、13・酒酔い運転(第65条第1項)、14・安全運転義務違反(第70条)です。
ただ、これまで法律上自転車に対する規制がなかったわけではありません。道路交通法上、自転車は軽車両に分類されており、同法は自転車についても規制していました。
その規制内容は広く、罰則が定められているものだけでも、酒酔い運転、過労運転、ひき逃げや当て逃げ(救護義務違反)、信号無視違反、通行禁止違反、追越禁止場所における追越違反、徐行違反、一時停止違反、安全運転義務違反、交通事故報告義務違反、無灯火、進路変更禁止、車間距離不保持、並進違反、歩行者妨害など、種々の規制があります。
今回の道路交通法の改正において、講習受講義務の原因となる上記の各危険行為も、それぞれ違反行為に対する罰則自体は、今回の改正以前から定められていました。
今回の改正で特にこれらの規制自体に変化があったわけではないので、実は今回の改正で、自転車に関する規制が大幅に改正されたとまでいえないという見方もできるかもしれません。
ただ、上記の講習受講義務等が定められることで、自転車の運転をより慎重に行うべきだという意識が高められることになると思われます。自転車事故は大きな事故にならないことが多く、免許も必要ではありません。また原則行政処分がなされず、摘発されればいきなり刑事罰が科されることになるため、警察官も、余程悪質な場合でもない限り、実際に摘発することが少なかった面があるかもしれません。
しかし実は自転車の運転にも、種々のルールが定められており、罰則もあるため、自動車の運転と同様、慎重に行う必要があるのです。
以上のような道路交通法上の規制に反した場合、救護義務違反等を除けば、事故の有無には関係なく、違反するだけでそれぞれ定められた罰則が適用されることになります。
では質問のように、さらに自転車の走行等の違反が原因で事故を引き起こした場合、どのような罪に問われるのでしょうか。まず、既に述べたように、罰則がある道路交通法の規定の違反があれば、その罪が成立します。
さらに事故によって被害者が死亡したり、怪我したりしていた場合、これに対する罪が成立することになります。この点、自動車の場合は、被害者が死傷した場合、危険な運転等が行われた場合、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律によって、重い刑が定められています。
同法律は自転車には適用がありませんので、刑法211条の業務上過失致死傷罪、あるいは重過失致死傷罪が適用されることになるでしょう。しかし、自転車の違反行為が原因で被害が生じれば全て刑事罰が科されるというわけではなく、その行為の悪質性や当事者の認識、過失の程度、現場の状況や予測の可否、あるいは被害の程度等、種々の要素が検討され、悪質な場合には業務上過失致死傷罪等として刑事処分を受けることになるでしょう。
そのため、質問にあるような、逆走が原因で、左側走行の自転車が車道にはみ出して追突されたような事例の場合、違反行為者が当然に刑事罰を受けるとは限らず、種々の要素が検討されることになります。
ただし、業務上過失致死傷罪等とならないような場合でも、民事責任が発生することは十分考えられます。
道路交通法上の規制の違反により事故が発生した場合、民事責任(損害賠償責任)については、違反行為が存在することによって責任は重くなるといえ、こちらに被害が生じた場合も、過失相殺される割合が高くなることが多いといえます。
自転車といえども事故が起きれば、被害の程度によっては大きな負担となるといえ、業務で使用している場合、会社の責任も追及される可能性があります。
そのため、会社としては従業員への指導をする必要があり、また自転車を対象とした保険への加入も検討しておくべきといえます。
(執筆 清水伸賢弁護士)