運転の指導・教育がないから事故を起こしたと抗議された

事故を起こした従業員から「私が事故を起こしたのは、会社が十分な運転指導と教育を行わなかったからだ」と抗議を受けました。確かに弊社では運転者に対して特別の教育を行っていません。また、事故を起こしたドライバーから一定の車の修繕費を徴収していますが、こちらも支払いを拒否されています。この従業員の抗議は正当なものなのでしょうか?

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆従業員が事故を起こした場合の責任

 本相談の過去の記事において、再三、「従業員が事故を起こした場合には、原則として会社が責任を負う。会社は、従業員に対する十分な運転指導と教育を行うべきである。」ということを述べてきました。


 質問では、会社として運転者に対して特別の教育を行っていないとのことであり、基本的には従業員が業務において起こした事故については、会社も責任を負わなければならないことになると思われます。

◆「責任の対象」

 ただし、上にいう「責任(使用者責任、運行


供用者責任)」は、基本的には事故の相手方に対する損害賠償責任のことをいうものです。事故の相手方に対しては、その保護のためにも、会社と従業員が共同して損害賠償責任を負うことになりますが、事故を起こした従業員と、会社との間の関係は、別の考慮が必要です。


 そもそも、事故が生じて相手方に損害賠償責任を負う場合、その事故の原因として、従業員自身に過失があることが一般的です。


 質問における従業員が起こした事故の内容は分かりませんが、いくら会社が運転指導や教育を行っていなかったとしても、車両を運転する以上、従業員自身が通常の運転を行うに足りる知識等を有していなければならないことは当然です。そのため、特別な事情がない限り、自身の不注意で起こした事故を、全て会社の行為が原因であるとすることはできないと言えます。

◆会社は従業員に求償することが認められている

 従業員と会社が損害賠償責任を負う場合、事故の相手方に対しては共同でその責任を負うことになります。しかし、損害保険等を考慮しなければ、実際に賠償を負担するのは、資力のある会社であることが多いといえるでしょう。


 その場合、会社は従業員から負担した損害を求償することができるとされています(民法715条3項、自賠法4条、民法709条)。


 もっとも、会社は従業員が業務を行うことで利益を得ているものであるため、その業務で生じた損失のリスクも負担すべきなので、会社が損害賠償を負担したとしても、その全てを従業員に負担させることはできないとされています。


 この点判例(最高裁判所昭和51年7月8日判決)は、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべき」とし、会社と従業員との間の損害の負担については、種々の事情を検討すべきとしています。

◆修繕費の徴収は不当とは言えない

 事故が生じた場合の、会社の車の修繕費を誰がどのように負担するのかという点は、事故の相手方に過失等がある場合や、従業員の行為が業務の範疇を超えており、そもそも会社が正式に従業員に対して損害賠償請求が可能な場合など、種々の要素によって詳しい検討が必要な場合もあり、内容が変わってくることがあるのですが、ここでは単純に事故によって生じた損害で、会社が負担した損害として一定の修繕費を求償しているものとします。


 この場合、会社が運転指導や教育等を行っていなかったとしても、既に述べたように、会社が従業員に対して求償することができないわけではありません。上記の判例がいうような基準で検討して、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度なのであれば、請求自体は不当なものとはいえません。会社が運転指導や教育をしていなかったこともふまえた上で、さらに修繕費の具体的金額や、全体の損害との割合等、種々の事情を検討しても、会社の修繕費の請求金額が相当といえる場合には、質問のような従業員の主張は、正当ではないといえるでしょう。


 もちろん先に述べたようにのように、具体的な事故の内容等から、会社の運転指導や教育等がないことが直接の原因であるような特別な事情がある場合には、従業員の主張が正当であると認められる場合があります。

◆事案によっては会社責任を重く問われるので、安全教育は重要

 以上のように、基本的には従業員の抗議は正当なものとはいえないことが多いでしょう。ただ、事故の内容等の具体的事情によっては、同抗議が正当な場合も当然考えられます。会社として採るべき対応は、十分な運転指導や教育を怠らないようにすることであるといえるでしょう。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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