今回は北海道河西郡芽室町の札幌新聞輸送株式会社の帯広営業所を訪ね、所長の伊藤光彦さんにドライバーさんへの安全教育の取り組みを中心にお話をお聞きしました。
(聞き手:山地正訓〈シンク出版〉)
山地「本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます」
伊藤「大阪からわざわざ来ていただき、ありがとうございます」
山地「こちらの営業所では、毎月、我々が制作している教育教材を使って安全教育を実施されていますね」
伊藤「以前は私がいろいろな資料や情報を集めて、教育の資料を作成していたのですが、シンク出版さんの教育教材と出会ってからは、そういった手間が省けて大変助かっています」
山地「毎月、教育用の小冊子や自己診断テストをご利用いただいているので、もうこちらの制作が追いつかないくらい熱心に取り組んで頂いているのですが、伊藤様がドライバーさんへの安全教育に取り組み始めたキッカケがあれば教えていただきたいのですが」
伊藤「私も元々はドライバーでした。年月が経って、今は所長という立場にいるのですが、我々の仕事は荷物を運んでくれるドライバーさんあってのものです。そのドライバーさんにはそれぞれ大切な家族や恋人がいて、守るべき生活があります。そういったドライバーさんの安定した生活を守るのが、私に課せられた使命だと考えています」
山地「そのためにも事故防止活動は欠かせないのですね」
伊藤「事故を起こして、良いことなど一つもありません。ですから出来る限りの安全教育を行っているつもりです」
山地「安全教育を行って来られた中で、ご苦労されていることはありますか?」
伊藤「苦労とは思いませんが、私や運行管理者が行っている教育や助言が、しっかり通じているかが心配ですね」
山地「確かに、管理サイドがいくら事故防止を訴えても、ドライバーさんがそれを受け止めて、理解していただかないことには事故はなくなりませんし、せっかくのご苦労が水の泡ですものね」
伊藤「そうです。そのためにはドライバーさんとの信頼関係が不可欠です。そこで私が意識していることは、ドライバーさんをよく観察することです」
山地「観察ですか?」
伊藤「これまでの経験ですが、事故を起こす前のドライバーさんには必ずなにか前兆があります。例えば、あるドライバーさんは、疲れてくると帰社した時のワイパーを立てておくという決め事を忘れたりします。またあるドライバーさんは、疲れたり調子が悪いとポケットに手を入れ出します」
山地「そういった普段と違う行動が事故の前兆なのですか?」
伊藤「おそらく本人はそういった変化に気づいていないのですが、私はそういった変化があれば必ず声をかけて、体調を確認したり、何か心配事がないかなどを尋ねるようにしています。」
山地「なるほど。本人も気づかないクセを観察して、声掛けをすることで事故防止につなげておられるのですね」
伊藤「とにかく我々管理者が、先にドライバーさんの異常に気づいてあげることが必要なのです。そうしていくうちに、お互いの信頼関係が生まれて、我々の行っている安全教育も理解してくれるようになると思っています」
山地「やはりそういった信頼関係の構築が大切なのですね」
伊藤「他にも、我々の方針や教育の意味に納得してもらうことも大切です。納得していないドライバーほど事故を起こしがちです」
山地「ドライバーさんに納得してもらうために、どのような取り組みをされていますか?」
伊藤「どんな取り組みをするにしても、必ず数値化したり目標を立ててもらったりしています。我々は、4トン車や2トン車、またワゴン車にもドライブレコーダーとデジタルタコグラフを搭載していますから、あらゆるデータや映像をとることができます。ですから『エコドライブの実施』にしても、過去の運転データと、現状を比較することができます」
山地「ドライバーさんにとっては、過去のデータより燃費を悪化させるわけには行きませんね」
伊藤「その結果を確認してもらうことも大切ですが、更に大事なのは、その燃費を踏まえてドライバーさんに今後の目標を記入してもらい、その目標に対して管理者がコメントを書くことなのです」
山地「ドライバーさんが数値を見て立てた目標に対して、管理者がコメントを書くといったコミュニケーションをとることによって、ドライバーさんの納得が得られるのですね」
伊藤「はい、私はそう信じています」
山地「ここからは今後の教育教材の開発のためにもお聞きしたいのですが、シンク出版の教育教材を使われていて、ドライバーさんの意識に変化は感じられますか?」
伊藤「ええ、一番大きいのはドライバーさんの知識と、教材に書いてある内容にギャップがあって、ドライバーさんが知識の間違いに気づいたり、新しい知識を得られることですね」
山地「具体的にはどういったことでしょう」
伊藤「交通事故の過失相殺について、わかりやすく問題形式にされている小冊子がありますけど、ドライバーさんからは『ええ!こんな運転で事故を起こしたらこんなに責任重いの!』といった声がありましたし、飲酒運転の小冊子でも『酒気残り』の知識が大変深まりました」
山地「我々もただ読むだけの本ではなく、ドライバーさんの知識がより深まるように色々仕掛けを考えています」
伊藤「そうですね。教材の巻末には安全運転目標や安全行動目標を記入する欄を設けてありますけど、あれも書いてもらうことで、安全意識の向上につながりますし、事業所としても安全教育の証になっています」
山地「最後になりますが、伊藤様は今後この事業所をどのようにしていきたいですか?」
伊藤「この業界は人手不足です。ですから、新しくこの業界に入ってくる人を増やすためにも、魅力的な会社にしていきたいです。私の夢は、社員の子供がこの会社で働くお父さんの姿をみて『僕もこの会社で働きたい』と思って入社してくれることなのです」
山地「そのためには、ドライバーさんが誇りを持って働くことが大切ですね」
伊藤「そうです。ウチのドライバーさんは北海道の厳しい冬にも負けずに新聞を届けるという使命を持って、頑張ってくれています。素晴らしい仕事だと私は思っています。そのドライバーさんを守るためには安全にかかる経費は当然必要です。たとえばもうすぐ厳しい冬が来ますが、ウチでは一流メーカーのスタッドレスにいち早く履き替えています。タイヤの減りが早くて頭の痛いところですが、それで起こさなくてもよい事故を防げれば、タイヤのコストは吸収できます。それが我々の役目なのです」
山地「これからもドライバーさんへの深い愛情を大切にしてください。今日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました」
・札幌新聞輸送株式会社帯広営業所 概要
新聞輸送においては全国トップクラスの輸送実績を誇る総合物流サービス企業。帯広営業所では東は根室、北は紋別まで運行している。ドライバーは24名が在籍しており、車両は4トン車11台、2トン車11台他を保有している。