運転者に事故防止教育をするのはもちろんのことですが、不幸にして事故やトラブルに見舞われた場合、本人が落ちついて対応できるように、非常事態に対する対処方法や連絡方法を定めて指導しておく必要があります。
皆さんの会社では、非常時連絡体制や運転者への教育は万全でしょうか。
こうした教育を怠ったために、大きな社会的損害を発生させた事例があります。
■事例──荷台からの油漏れを放置し、84件の事故・被害を誘発
約7000リットルの油を
道路延長40キロにわたって漏洩させた
昨年(平成26年)8月23日未明、大阪府堺市で米油約2万2,800リットル入りのポリエチレンフィルム製タンクを積載したトレーラーが、急ブレーキをかけた際にタンク内で油が前方に動き大きな力がかかって上面が破れ道路上に漏れ出しました。
運転者は途中で油漏れに気がついたもののパニックに陥ってそのまま走行し、堺市から和歌山県かつらぎ町にかけて、42kmの道路上に約7,000リットルの油をまき散らしました。この日は雨で路面が濡れていたせいもあり油は広く拡散しました。
このため、車がスリップしてガードレールに接触したりバイクや自転車が転倒したりする事故が多数発生し、重軽傷者は計21人、警察に報告された被害は84件に上りました。
緊急時対応の教育をしていなかった
事故の原因分析をした国土交通省の事業用自動車事故調査委員会は、さる平成27年11月11日に事故調査報告書を公表しました。
報告書によると、油が流出したのは急ブレーキが主原因とし、被害拡大の要因としては、
として、非常事態に備えた体制の整備を求める内容となっています。
■連絡体制を定める
この事例では運転者が連絡を怠ったため、大きな社会的損害が発生し、会社も信用を失うことになりました。こうした事態を防ぐためには、日頃から緊急連絡体制の構築を行い、運転者には「誰に」「どのような連絡をするか」の指導を徹底しておくことが大切です。
具体的には、下図のような緊急連絡網を明確にして、事業所の休憩所などに張り出すとともに、運転者にも連絡先の電話番号や緊急時マニュアルを渡しておきましょう。
■車両搭載装備の確認
小さな事故・トラブルであれば運転者自身がその場で対応することも可能ですが、たとえば火災時の初期消火には消火器が不可欠ですし、バッテリー上がりにはブースターケーブルを使用するなど、最低限の応急用装備が必要になります。
高速道路で停止した場合は非常停止器材(三角停止表示板など)がないと、後続車両に危険を知らせることができません。
そこで、緊急時対応のための装備を車両に搭載するとともに、搭載チェック表をダッシュボードに入れておいて、定期的に車両管理者がチェックするようにしましょう。
■イエローカードの携行等を確認
なお、貨物運送事業者として危険物をタンクローリーで移送したりドラム缶等で運搬している事業所では、運転者に「イエローカード」を常に携行させるとともに、危険物の性質に応じた応急対処方法を指導しておく必要があります。
イエローカードは、危険物の輸送事故に備えて、輸送品目名や種類、事故が発生したときに運転者がとるべき応急措置、漏洩・飛散時の緊急措置、連絡先などが記載された書面です。
可燃性ガス・化学薬品・液体酸素などを運ぶときは、必ずカードを携帯させ、事前に応急措置をチェックさせましょう。
イエローカードには危険物の有害性や「水と反応すると危険」などといった危険性が具体的に書かれていますので、これを確認することが運転者の危機管理意識を刺激し、「安全運転をしなくてはいけない」と考えさせる動機づけにもなります。