道路交通法103条は、運転免許の取消し、停止等の規定を定めています。その理由は種々規定されていますが、同条1項には以下の場合に、公安委員会が政令に定める一定の基準により、免許を取消し、又は6月を超えない範囲で免許の効力を停止できるとされています。
「危険性帯有者」とは、この8号に定められている者をいいます。
同法同条同項の1号から7号に規定されているもの以外に、「運転で著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある場合」ですが、どのような場合に危険性帯有者となるかは、具体的な事例によって判断されるといわざるをえません。
例えば、1号に規定する病気以外の病気などで、安全に運転できないような状態が認められる場合等、安全運転の心理的適性を欠くと認められた場合や、いわゆる暴走行為を反復継続して行っているような者などが考えられるでしょう。
ただ、8号は抽象的な規定であるため、その危険性の程度は、少なくとも同法同条の1号から7号に見られる危険性と同等の程度である必要があるとされなければならないでしょう。
道路交通法103条は、刑事処分ではなく、行政処分を定めたものなので、ここで両者の違いについて簡単に触れます。
刑事処分とは、法に定められた罪を犯した者に対して罰則を規定して処罰するものです。手続は刑事訴訟法等に基づく司法による刑事手続に従って行われ、懲役刑、禁固刑、罰金刑などが定められています。
一方、行政処分とは一定の行政目的に従って規制等を行うものであり、行政による免許の取消しや停止が行われるものです。
交通事件でいうと、例えば危険な運転をして人を轢いてしまった場合、いわゆる危険運転致死傷罪等によって警察に取調べを受け、検察庁に起訴され、裁判所において処罰されるのが刑事処分であり、公安委員会から免許を取り消されたり、効力を停止されたりすることが行政処分です。
両者は同じ事実を対象としていることも多く(例えば道路交通法103条2項は、刑事処分を受けるべき犯罪行為を行ったことを、公安委員会が免許を取消すことができる事由としています。)、また軽微な事件の場合、本来であれば刑事処分となるべきところを、交通反則通告制度(いわゆる「切符を切られて」反則金を支払うものです。)によって反則金を払えば、刑事処分の手続に移行しないという運用がなされているため、その違いは分かりにくくなっているといえます。
刑事処分は、犯罪を行っていない者に科すことをしてはなりません。危険性帯有者は、危険が認められるというだけで、具体的には何も罪を犯していないものであり、刑事処分の対象にすることは許されず、上記の8号も、行政処分として免許を取消し、あるいは免許の効力が停止されるというものです。
危険性帯有者の概念自体は、最近になって新しく制定されたというわけでなく、従前から存在しました。
ただ先般、警視庁などが、危険ドラッグの所持者や使用者に対し、同号の危険性帯有者として行政処分を行う方針を固めたことから話題となっています。
危険ドラッグは法律上、上記の3号に規定するアルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤のいずれでもないとされ、危険ドラッグの使用が予想される者に対する運転行為は、3号によって規制することができませんでした。そのため危険ドラッグについては、危険性帯有者に含める運用をするとされたのです。
その場合の具体的な要件は、各都道府県警察で検討されているようですが、上記のように危険性帯有者の概念や規定自体は抽象的ですので、安易な適用がされてはなりません。
しかし一方で、危険性が明らかといえるのであれば適用されることになり、その危険性は必ずしも車の運転で実証されなければならないというわけではなく、例えば危険ドラッグを使用して自転車を運転していたような場合など、その程度や運転の態様などから判断して、自動車の免許の取消しや停止をされることになります。
(執筆 清水伸賢弁護士)