平成27年11月24日(火)に岡山市北区のピュアリティまきびにおいて、「地域の安全と活性化」をテーマに、第19回交通大学が開催されました。
交通大学はマイクロメイト岡山株式会社が交通問題の解決を目的に毎年開催している講座で、今回で19回目の開催となりました。
今回の交通大学は、84名が受講し、金光義弘氏(川崎医療福祉大学名誉教授・NPO法人 安全と安心 心のまなびば 理事長)をコーディネーターとして、鈴木春男氏(千葉大学名誉教授)の特別基調講演のほか以下の3つの講座が開かれました。
特別基調講演 「交通安全への動機づけ」
──鈴木春男(千葉大学名誉教授)
第1講座 「新しい交通安全教育の理論と方法<ピア協動実践学習>」
──金光義弘(NPO法人 安全と安心 心のまなびば 理事長)
第2講座 「互譲精神を基本理念とした交通安全教育の取り組み」
──井口國雄(長崎県あたご自動車学校代表取締役)
第3講座 「シニア・リーダー育成モデル事業のその後」
──第一部 <岡山県の取り組み>
三村仁志参事官・藤社悦史警部補(岡山県警察本部交通企画課)
──第二部 <高齢者に向けた交通安全講習の実演>
シルバー・セーフティ・サポーター
ここでは、鈴木春男氏による特別基調講演を紹介します。
「ヒヤリ地図」を考案するなど、交通安全教育の権威である鈴木春男氏(千葉大学名誉教授)が社会学の立場から「交通安全への動機づけ」をテーマに特別基調講演を行いました。
例えば、「スピードを出すと危ない」ということは、ほとんどの人が理解していると思います。しかし実際には、このことを理解しながらも、多くの人がスピードを出して運転をしています。
この例からわかるように、「わかっちゃいるけどやめられない」のが人間であり、交通安全教育においても、知識を与えるだけでは安全な行動をしてくれる訳ではありません。
安全な行動をしてもらうためには、人間の行動メカニズムを理解することが大切です。まず、人間の行動は「無意識の行動」、「強制的にやらされる行動」、「目的を持って自発的に行う行動」に分けられます。
この内、「目的を持って自発的に行う行動」(行為)を解明することが、交通安全教育には重要です。
人は問題を発見することで、問題を解決するための行動を起こします。
例えば、お腹がすいたら(問題発見)食事をします(問題解決)。また、汗をかいたら(問題発見)シャワーを浴びます(問題解決)。
このように、問題解決とは問題を発見することによって生まれます。先ほども知識を与えるだけでは、行動を起こさせることは難しいと説明しましたが、シャワーの例で言いますと、「シャワーを浴びたら気持ちがいいよ」とか、「シャワーを浴びなさいよ」と忠告してもあまり効果はありません。
この場合には、「側に来たら汗くさいよ」と言ってやると、本人が「シャワーを浴びないと迷惑かな」といった問題発見をするので、シャワーを浴びるという問題解決につながります。このように本人に問題を見つけてもらわないと、いくら正解を与えても行動は変わりません。
しかしながら、問題を発見したからといって、そのことがすぐに問題解決につながるわけではありません。問題を発見すると、過去の経験や他者の助言などをもとに様々な選択肢を思い浮かべます。その選択肢の中から、どれくらいの負担(マイナス)があり、効果(プラス)があるのかを計算して、プラスの大きい解決策を選択しているのです。これが問題形成です。
また、事実があれば問題を発見できるというのは間違いです。例をあげれば、高齢者が横断歩道を渡るのに、実際には10秒かかる(事実)とします。
しかし、多くの高齢者は過去の経験や、自分の体の状態を正しく把握していないために「私は5秒で渡れる」(価値)と勘違いしていることが多いのです。
この例に限らず「価値」が正しい問題発見を妨げているケースは多くあります。
ですから、正しい問題発見のためには、その人の問題意識(価値)を修正する必要があります。しかしながら、L・フェスティンガー(社会心理学者)が提唱した「認知的不協和の理論」にもあるように、人は「自分は間違っていない」と正当化したがる傾向がありますから、問題意識(価値)の修正は容易ではありません。
人間は相手との人間関係に強く参加すると、相手の立場でモノを考えるようになり、自身の問題意識(価値)の修正につながることがわかってきました。
このことはマーケティングの世界でも取り入れられており、口コミやモニター制度などは、企業にとって自社の製品やサービスをPRしてもらうオピニオンリーダーの役割を消費者に担ってもらうことで、これまで自社に関心を抱かなかった消費者を取り込む手段として広く普及しています。
交通安全の分野でも、高齢者への交通安全教育の手法として、「参加」がキーワードとなっています。これまで、交通社会において高齢者は「守られるべき交通弱者」と見られてきました。しかし、近年、高齢者の社会参加意識は年々増加しており、この高い社会への参加意識を交通の分野にも取り入れていくことが大切です。
地域においても、高齢者だからこそ気づくことのできる危険があります。そういった危険を社会に発信していくこと、児童や園児を見守るボランティアをすることで、自分自身の交通安全意識を高めることもできます。こういった「参加」が高齢者の問題意識を変え、交通事故防止につながるのです。
ネイバーフッドウォッチは、アメリカのアラバマ州タスカルーサ市で行われていた、ボランティア精神を養うためのプログラムです。
子供たちが高齢者の家を訪れ、家事の手伝いなどをするプログラムなのですが、高齢者は自宅までやってくる子供たちに対して交通安全教育を行うことになっています。まずはじめに、地元の警察官が高齢者に対し「交通ルールブック」を渡して、「ご存知の交通ルールは古いかもしれませんから、この本を読んで、子供たちに交通安全教育をしてくださいね」とお願いします。
高齢者は子供たちにウソを教えるわけにはいきませんから、しっかりと交通ルールブックを読んで勉強をします。このプログラムは高齢者に子供たちへの指導役という役割を演じてもらうことで、自らの交通安全意識を高めてもらうという狙いがあるのです。
私は、このプログラムの趣旨にヒントを得て、「ヒヤリ地図」、「世代間連携交通安全教育」、「いきいき運転講座」などの参加型教育を提案してきました。これらの教育手法が皆様の交通安全教育に活かされることを期待しております。
第19回交通大学データ
・日時 平成27年11月24日(火)9:30~16:30
・会場 ピュアリティまきび
・主催 マイクロメイト岡山株式会社(木村憙從代表取締役会長)
・コーディネーター 金光義弘(川崎医療福祉大学名誉教授・NPO法人 安全と安心 心のまなびば 理事長)
・プログラム
特別基調講演 「交通安全への動機付け」
──鈴木春男(千葉大学名誉教授)
第1講座 「新しい交通安全教育の理論と方法<ピア協動実践学習>」
──金光義弘(NPO法人 安全と安心 心のまなびば 理事長)
第2講座 「互譲精神を基本理念とした交通安全教育の取り組み」
──井口國雄(長崎県あたご自動車学校代表取締役)
第3講座 「シニア・リーダー育成モデル事業のその後」
──第一部 <岡山県の取り組み>
三村仁志参事官・藤社悦史警部補(岡山県警察本部交通企画課)
──第二部 <高齢者に向けた交通安全講習の実演>
シルバー・セーフティ・サポーター