2016年1月15日未明、長野県軽井沢町の国道16号で走行中の大型貸切バスが道路外に転落し、乗客・乗務員15人が死亡、26人が重軽傷を負うという痛ましい事故が発生しました。
この事故を受けて、国土交通省は翌16日に「貸切バスの安全確保の徹底について」と題する緊急通達を行い、安全対策と事故防止の徹底が図られるように以下の3点を強調しました。
1 運行管理業務を再確認し、安全確保の原点に立った確実な
運行管理を実施すること。特に次に掲げる事項を適切に実施
すること。
(1)確実に点呼を実施すること
(2)乗務員の健康状態、過労状態の確実な把握に努めること
(3)適切な運行計画を作成し、確実に指示すること
2.乗車中のシートベルトの使用等、乗客の安全確保を図るための
周知事項を再徹底すること。
3.運行にあたっては、車両の点検整備を確実に実施するとともに、
乗務員に対して制限速度の遵守をはじめとした道路交通法等の
法令遵守の徹底を図るなど、安全の確保を最優先するよう関係
者に徹底すること。
国土交通省は、事故を起こしたバス事業者などの特別監査を経て貸切バスの安全確保強化にさらに強い対策が必要と判断し、2月3日には以下の緊急対策を公表しました。
・ 貸切バスのシートベルトの着用徹底について
※ 警察庁との同時プレス
・ 運転者に対する運転技能の指導の徹底について
・ 貸切バスの安全確保の再徹底について
→ 詳しくは、国土交通省のWEBサイトを参照。
国土交通省ではとりあえず中小の貸切バスで処分歴がある事業者を中心に、2016年3月中旬までに約100社を抜き打ちで集中監査する方針です。
今回事故を起こした貸切バス事業者に関しては、特別監査を経て、以下のような点で重大な道路運送法違反、労働安全衛生法違反、労働基準法違反等が発覚し、事業取消処分を受けることになりました。
群馬県・関越自動車道で2012年に乗客7人が死亡したツアーバス事故以来、自動車運送事業者への監査や輸送の安全にかかわる処分が強化されてきましたが、今後さらに、運輸局、労基署による事業者への監査が厳しくなるのは必至です。
自動車運送事業者の皆さんは、自社の運行管理業務の実態を再度厳しくチェックしましょう。
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【事故を起こしたバス会社の主な法令違反項目】
・点呼が確実に実施されていなかった
・点呼記録簿に不正な記載があった
──実際に点呼をしていないのに点呼済の捺印があった
・運行経路、休憩場所等を明記した法定要件を満たす運行指示書が作成されていなかった
・乗客に案内した経路(ツアー会社作成行程表)を運転者が勝手に変更し、変更の事実を
運行管理者に連絡していなかった
・運行記録計にチャート紙を入れないまま運行していたケースが過去にあった
・チャート紙を1年間保存していなかった
・乗務員台帳が不完全だった
──運転者の免許種類、健康状態などの個別情報に未記載があった
・当該運転者(65歳)の雇入時の健康診断・適性診断が未実施だった
・運転者が運行管理者と常時連絡をとれる体制が整備されていなかった
・発着/帰着地の届け出営業所に運行管理者、整備管理者の勤務実態がなかった
──営業所としての実態がなく、営業区域外の運送にあたる
・3ヶ月定期点検整備の書類が一部保存されていなかった(確認できなかった)
・運転者に対しては、輸送の安全を保つ指導監督が不十分だった
・基準下限額より低い運賃(料金)で貸切バスの運行を受注している(複数の契約)
・旅行会社とバス運行会社の間で運行申込書・運行引受書が完全に作成されていない
・改善基準告示に抵触する乗務を過去に指示していた
──複数の運転者の勤務記録から休息期間の不足などを確認した
・一部の乗務員と正式な労働協約(36協定)を結んでいなかった → 基準告示の範囲内でも
週40時間を超える残業は違法な時間外労働を命じていたことになる
・運転者は、バスの乗客にシートベルトの着用を強く指示していなかった
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1月15-17日・1月29日 国土交通省による特別監査
(指摘事項は合計33件、許可取消しに必要な点数に満たないものの、「社会的影響の
ある重大事故については行政処分を加重できる」との基準を初適用した結果、違反
点数は81点以上となり → 事業許可取消処分へ)
1月21日 青梅労働基準監督署による監査(労働基準法違反など)
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