鉄道との事故における損害賠償責任

踏切などで鉄道と事故を起こすと、高額の損害賠償額が発生すると聞いています。踏切での事故はほとんど自動車に過失があると思いますが、その場合に、鉄道に乗っていた乗客のケガなどはもちろん、電車の遅延によって生じた損害までも補填する必要があるのでしょうか?踏切事故によって生じる賠償責任の範囲を教えてください。

■回答(清水伸賢弁護士──WILL法律事務所)

◆鉄道との事故

 踏切等における自動車と鉄道との事故は、踏切の機械等が故障するなどしていない限り、ほぼ自動車に過失がある場合が多いといえます。

 

 そして、事故によりひとたび鉄道を止めてしまうと、鉄道会社や乗客には多くの損害が生じるものといえますので、一般にその賠償額は高額になると言われています。

 

 損害賠償の金額を検討するために、不法行為があった場合に、どのような範囲の損害を賠償しなければならないか、という点を知っておく必要があります

◆損害賠償の範囲

 不法行為責任を定める民法709条では、ある人が故意又は過失によって他人の権利等を侵害した場合、それによって生じた損害を賠償しなければならないとしています。しかし、単に不法行為と損害との間に「あれなければこれなし」という関係(事実的因果関係、あるいは条件関係などといいます。)があれば、その損害を全て賠償しなければならないとすると、不法行為責任の内容があまりにも広く、重いものになってしまいます。

 

 極端な例ですが、例えば交通事故で被害者が軽傷を負って病院に行ったところ、院内感染で重病に陥って数ヶ月入院して重い後遺症も残ったというような場合、「あれなければこれなし」という関係にあったのだから、交通事故の加害者に院内感染の入院や後遺症等の責任を負わなければならない、ということになれば、加害者の責任の内容があまりに重くなってしまいます。

 

 民法の不法行為の規定の根拠の一つには、損害の公平な分担という考え方があるのですが、加害者の責任が重すぎる場合には、その見地からも不当な結論になってしまいます。

 

 そのため不法行為責任は、行為と損害との間に単なる条件関係があるだけで認めるのではなく、それ以外の一定の関係を必要として、不法行為の範囲が無限定に拡大することを防止し、範囲を限定しなければなりません。

 

 この因果関係をどのように解するべきかという点については、学説も分かれて議論されているところで、詳しく述べると非常に長くなりますので省きますが、判例は債務不履行(契約違反等)に基づく損害賠償の範囲を定めた民法416条という規定を類推する見解を採っていると言われており、同様の見解を採る学説も多くなっています。

 

 判例や学説の多くがいう因果関係は、「相当因果関係」と言われており、行為と損害との間に社会通念上相当と認められるような関係がある場合、言い換えれば結果発生が通常(相当)であるといえる場合に限り、責任を負うとするものです。

◆鉄道事故による損害の内容

 以上を鉄道事故において検討すると、鉄道事故の場合に通常生じるであろう、代替交通機関の振替についての輸送費や、事故対応のための人件費等、乗車券、特急券等の払戻による等、遅延によって当然生じる損害は認められることになり、事故の内容等によっては乗客等の宿泊費等の損害も認められることになるでしょう。

 

 また、事故で損傷した車両や線路、関連機器や設備の修理費用も、当然損害とされることになります。さらに、事故が原因で乗客にけがが生じた場合には、同損害も通常認められるような内容であれば、損害賠償の範囲に入ってくることになります。

 

 ただし、事故によって乗客が足止めされて、大事な会議に遅れて会社が損害を受けたとか、飛行機に乗れなかったなどという損害については、通常生ずべきとはいえず、社会通念上相当であると認められることは難しいといえます。

 

 それでもやはり鉄道事故の場合には損害賠償の金額としては高額になるといえ、具体的な金額は、事故の内容や規模、及び損害の内容によりますが、全体の損害額として数千万円程度となることは珍しくなく、時には億を超えることもあると言われています。

◆損害賠償請求の実際

 このように、鉄道事故の場合には、多額の損害賠償義務を負うことが想定されます。

 

 実際には、鉄道会社との間で示談が成立し、損害の全額の賠償を免れたり、鉄道会社が加害者の生活状況や身上に配慮して請求しなかったりする場合もあるようですが、これはあくまでも鉄道会社が判断することですので、そのような事例があるからといって、当然に損害賠償額が減額されるものと考えるべきではありません。

 

 自動車の運転において鉄道と接触するのは、やはり踏切が最も多いため、交通安全指導においては、踏切進入の際の注意点を周知徹底しておくべきです。

(執筆 清水伸賢弁護士)

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