バスドライバーの健康管理をテーマに講習会を開催 講演2

事業用自動車(バス)の安全対策

 

杉﨑 友信

中部運輸局 自動車技術安全部長

 

 続いて講演2では、中部運輸局の杉﨑自動車技術安全部長が、事業用自動車の交通事故発生状況や最近多発している貸切バスの健康起因事故の事例などを説明し、運送事業者向けの健康管理支援事業や健康管理マニュアルの活用について解説しました。


■「安全確保の徹底」を求める緊急のお願いについて

杉﨑 最初に、軽井沢のスキーバス事故を踏まえ、1月15日付で運送事業者あてに発出された「貸切バスの安全確保の徹底について」というペーパーを別途配らせていただいておりますので御覧ください。

 これは、去る1月15日に発生した軽井沢のバス事故を踏まえたものです。過去30年来の、非常に痛ましい事故が発生したということで、国土交通省でも対策本部を設けて今後の対策について検討しているところです。

 その検討に先立ち、「運行管理の徹底」を皆様方に周知すべく、配布させていただいております。

 

 今回の事案には、さまざまな法令違反が指摘されていますが、背景には旅行業とバス事業間の元請け・下請けの関係により、下限額を下回った運賃で運行したり、運転手不足の中、十分な教育を受けずに大型バスを運転するなど社会的かつ構造的な問題があったのではないかと思っております。

 

 また、先程垰田先生のお話にもありましたが、運送業界は脳・心臓疾患の労災認定件数はこれまで全業種の中で最悪ということで、こういったことも運転手不足の原因の1つではないかと指摘されている状況です。

 

 やはりこうした社会問題をなくして魅力ある業界にしていかないと人は集まりません。ここにおられる皆様方は魅力ある会社を目指しておられると思いますので、法令を守るのは当たり前と自負し、法令遵守以上に、積極的に安全対策をやっていただきたい、そういう思いでおりますのでよろしくお願いします。 

■点呼や指導監督が不十分なため起こった追突事故の事例

 国土交通省では、事業用自動車の事故調査委員会を昨年度創設し、しっかりとした細かいミクロ事故分析を行っています。

 これは、平成26年8月4日、首都高速道路で発生した貸切マイクロバスの事故例です。

 

 貸切マイクロバスが、首都高速道路を速度80キロと法定速度を超えて走行していたところ、その運転手が、上方にあった交通渋滞の看板のお知らせに目が行き、目を戻したとき、前に渋滞でとまっていたトラックに衝突したという事例です。この事故により、運転手1名と乗客9名が軽傷を負っています。

 

 このバス事業者の運行管理について、点呼が適切に実施されず、また、適性診断は受けてはいたけれども、それが教育につながっていなかったといった点が指摘されています。そういった点呼における適切な指示や、運転手の適性を踏まえた教育をしっかりしていれば、事故を防げたかもしれない、そういった結論になっています。

■健康管理の不徹底が一因で起こった追突事故の事例

 次は、平成26年9月26日、神奈川県の平塚市で起こった健康起因関係の事故例です。

 

 貸切バスが乗客13名を乗せて小田原厚木道路を走行していたところ、運転手は左胸が苦しくなって、我慢できない状況になって下を向き、その後前を見たら、停止していた高所作業車に気づいてブレーキを踏みましたが、間に合わずに追突してしまった、という事故です。

 

 運転手は追突の1200mぐらい手前から、既に冷や汗が出て苦しくなっていますが、次の休憩地点であるサービスエリアまで何とかもたせたいという思いから、そのまま走り続けて事故に至っております。

 この運転手は、事故後の精密検査の結果を踏まえると、運転中に「狭心症」を起こした可能性が高いとのことです。

 この運転手は入社後まだ1月だったのですが、健康管理の状況を調査した結果、入社直前の事故前2ヵ月以内に2回胸部痛があったが、自然に回復したことから病院での検査を受けておらず、また、雇入れ時の健康診断において、医師から心電図異常の診断があり要精査の意見があったが、精密検査を受けていなかったとのこと。そして、事業者は、この運転者に乗務を続けさせ、精密検査の受診と運転乗務の可否に関する医師からの意見聴取を先延ばしにしていた状況だったようです。

 

 今日のテーマでもあります「健康管理」をしっかりしておらず、健康状態の把握もしていなかったということが、1つの大きな要因ではなかったかという事例です。

 このほか、衝突防止補助装置をつけていたものの、それが作動していなかったという追突事故例も分析しています。

 

 装置の故障か、あるいは警報音が鳴るのをうるさく感じて装置が作動しないようにしたのかなど装置が作動しなかった原因は不明ですが、せっかく、後付けで安全支援装置をつけていたとしても、適切に活用されているのかどうなのか、そうしたチェックが必要であった事例です。

■健康管理支援事業の創設

 中部運輸局管内でもこうした健康起因事案が増加していると感じています。平成26年中の健康起因事案の報告件数は27件うちバスは19件という実情で、事故には至らない乗務交替件数も年間21件、うちバスは17件と多数を占めています。

 

 ただし、タクシー・トラックは重大事故や死亡事故に至った事案しか報告いただけていないという状況もあるかと思います。

 

 こうした状況を踏まえて、管内でも健康管理支援事業を実施していこうと考えています。国土交通省で平成26年に「健康管理マニュアル」を改訂したのですが、マニュアルについて知らなかったり、知っていても活用方法がよくわからない、やる気はあるけれど健康管理をどうやってすすめたらよいかわからないという事業者の方々がおられます。

 

 また、健康管理はハード面もいろいろな機器が出ていますが、どれを使ったらよいのかよくわからない。あるいは、健康診断以外の様々なスクリーニング検査がありますが、その費用負担も大きいという声が聞こえています。

 

 そうした中で、関係者や関係協会、健保組合・健保協会、地域保健センターと健康管理のコンサルタント事業者とともに協力して、運送事業者が健康管理を進めることができるよう支援事業の創設について関係者と話し合っているところです。

■健康管理の3つのステップ

●健康管理マニュアルの徹底

 実際に、どのように健康管理を推進していくかというと、まず、第1ステップとしては、健康管理マニュアルを徹底していただきたいと思っています。

 

 マニュアルにも記載されていますが、まずは、定期健康診断を受診していただく必要があります。健康診断の結果、何か所見があれば医師の診断を受け、就業にあたっての医師の意見を聴取して就業上の措置を決定してください。

 また、健康診断の結果、所見なしであっても、ドライバーの自覚症状、外見上の前兆とか、そういったものを把握し、必要に応じて医師の診断を受けさせ、医師の意見を聴取して就業上の措置を決定する必要があります。

 さらに、医師の意見を踏まえ、深夜の乗務回数を減少するなど乗務の軽減・転換を措置した場合、医師等による保健指導を受けさせるようにしてください。ここまでが必ず実施していただく義務事項です。 

 これに加え、SAS、脳MRI、人間ドックなどのスクリーニング検査を推奨しています。 

 

●特定健診、特定保健指導の活用 

 第2ステップが、特定健診、特定保健指導の活用というところです。協会けんぽさんからもお話があると思いますが、特定保健指導を受けるべき対象でありながら、実際に指導を受ける人たちは1割にも満たないと言われています。せっかくほとんど費用負担なしで受けられるものですから、ぜひご活用頂きたいと思います。 

 

●データヘルスの活用

 第3のステップとしてデーターヘルスの活用です。平成27年度から全ての健保組合においてデータヘルス計画が開始されています。運送事業者の皆さんは、旅客という命を預かり運送していることから、他の業界に比べより積極的に健康経営に取り組んでいただく必要があると感じており、その1つとしてデータヘルスを促進していただきたいと思います。

 

 データヘルスでは、健診結果やレセプトデータなどのデータに基づき、事業者の特徴、費用対効果などを踏まえて取り組みを計画していくものです。例えば、それぞれの事業所の運転手毎に6ヶ月後の成果目標を掲げて計画を作り、実際に取り組み、本当にできているのかどうか、できていなければもう一回計画を見直す。こうしたPDCAを回していくなかでより高い効果が期待されます。

 

 運送事業者の方々が、最初から、独自で取り組むのは難しいと思われますので、まずは健康管理コンサルタントなどの協力も得て行っていく方が良いのではと思います。

 

■健康起因事故防止のための予算について

 国土交通省の平成28年の予算案のなかでも、安全対策の支援の一環として、健康起因事故の防止という側面での支援策がいろいろと考えられています。

 

 運転者向けスクリーニング検査の普及促進ということで、脳MRIとかSASなどのスクリーニング検査に関して調査を行い、普及促進に結びつけます。

 

 また、総合安全対策事業として社内安全教育の実施に対する支援があります。ここでも健康管理関係でコンサルタントを依頼するなどの場合に補助が使えるものがありますので、少しでも事業者の皆さんのコスト削減につながると思います。

■車検切れ監査と貸切バスの重点監査について

 このほか、最近の動向としてバス事業者においても、車検証の有効期間切れを気づかずに運行している例が結構みられます。

 

 整備工場にお任せ状態にしているなどの原因で、車検切れに気づいていない事例がありました。運送事業者が自ら責任をもって、車検証の有効期間の確認に関して再度徹底していただければと思っています。 

 

 関連して、管内では有効期間切れの重点監査を行う予定です。

 また、国交省全体として、スキーバスや貸切バスの重点監査を取り急ぎ実施します。中部運輸局としても貸切バスを中心とした監査体制の強化を図っていきたいと思っています。

 最後に、バスの車両火災事故防止についてご説明しますが、最近は車齢が長くなってきている関係もあって火災事故が相次いでいます。

 

 昨年末にも東京・池袋、長崎等で相次いで発生しています。天井裏などの電気系統の配線からの発火などもありますが、車齢の高いものについては、再度点検の徹底をしていただきたいと思います。

 

 今後もできるだけ、事故を防ぐため皆様方と一緒になって努力したいと思っています。何か御協力できる点があればぜひ御協力させていただきたいと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

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